「不適法な二次的著作物の複製は侵害か?」に触れた裁判例(記念樹事件)

昨日のエントリから「不適法な二次的著作物の複製は侵害か?」という問題を考えていたのだった。
そこで「裁判を起こしてみないと分からない」という旨のことを書いたが、参考になりそうな裁判例を見つけたので、今日はそれについて書いてみる。この裁判例は「二次的著作物はたとえ不適法であっても著作権が発生し、かつ、その権利行使ができる」という考え方(通説と同じ)のようだ。まずその判決の該当箇所を引用する。

なお、控訴人金井音楽出版において、歌曲「記念樹」の創作過程の違法性を理由に、その関係者への分配分は否定されるとの趣旨の主張をしていることは上記のとおりであるが、現行著作権法が、二次的著作物に著作権が発生し同法上の保護を受ける要件として、当該二次的著作物の創作の適法性を要求していないことは、同法2条1項11号の文言及び旧著作権法(明治32年法律第39号)からの改正経過(例えば、旧著作権法22条の適法要件の撤廃)に照らして明らかであるから、上記主張は失当というべきである。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/7DC32FC8D5ABA0A749256C7F0023A165.pdf

1.引用箇所の解釈

この判決は有名な小林亜星氏と服部克久氏の記念樹事件の高裁判決(東京高裁H14年9月6日)だ。この事件は服部氏の『記念樹』(『あっぱれさんま大先生』のテーマ曲)が小林氏の『どこまでも行こう』をパクっているとして、小林氏とレコード会社(金井音楽出版)が服部氏*1を訴えた事件。小林氏側が勝訴している(損害賠償と差止め)。東京高裁で勝訴し、最高裁で上告不受理により確定。


上記引用箇所は「二次的著作物は適法でなくとも著作権が発生し保護を受けられる」と述べている。そして小林氏側の権利行使(損害賠償と差止め)を認めている。ということは高裁は二次的著作物はたとえ不適法であっても(1)著作権が発生し、かつ本件の場合は(2)その権利行使ができることを認めたと解釈できる。通説に従っているということだ。


しかし、この裁判例は以下の理由で「参考」にとどまる。
第一に不適法な二次著作に基づく権利行使ではないため。昨日のエントリにおける『NARUTO』の同人誌とは事実関係が異なる。よって傍論という次の理由につながる。
第二に傍論であるため。傍論というのは判決の中で判決主文の理由になっていない箇所。傍論での判断は法的な効果をもたない。しかし事実として「裁判官がこう考えているようだ」という参考にはなる。本件の事実関係は複雑でよく読まないと分からないが、裁判所は上記引用箇所で「仮に主張どおり二次的著作物が違法だとしても…」と述べているので傍論と考えられる。「なお」で始まっていることからも分かる。
第三に最高裁判例ではないため、ということもある。

2.なぜたとえ不適法であっても著作権が発生し、かつ、その権利行使ができるのか?

本判決によればその理由は(a)著作権法2条1項11号の文言と(b)旧著作権法からの改正経過である。
(a)2条1項11号は以下のような定義規定なので実質的な理由は(b)改正経過だと思われる。

2条1項11号 二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。

(b)改正経緯は昨日のエントリで触れたことだが繰り返しておく。旧著作権法22条は不適法な二次的著作物には著作権が発生しないと規定していた。これを適法要件と呼ぶ。現行著作権法の制定時にこの規定が撤廃された。よって不適法な二次的著作物にも(1)著作権が発生するといえる。ただ(2)権利行使できるかについては改正経過でどう考えられていたのか。それは本判決からは明らかではない。権利濫用のような事情がない限り権利行使が認められるということなのだろうか。


【関連エントリ】
不適法な二次的著作物の複製は侵害か? ※昨日のエントリ

*1:別に服部氏のレコード会社やテレビ局、JASRACを訴えた事件もある。