なぜ日本の漁業(水産業)はダメなのか?

日本の第一次産業シリーズ第3回。前回、前々回と八田達夫・高田眞『日本の農林水産業(2010)(読書メモ)を基に日本の農業・林業の問題点について書いた。今回も同様に同書に基づき漁業の問題点について書いてみる。

●日本の漁業の現状

日本は1972-1988年にかけて世界最大の漁業国だったが、現在はノルウェーなどに追い越されている。現在(2008年)、日本の漁業・養殖業の生産量(トン)はピークの1988年の半分ほどに低下している。

●なぜ日本の漁業は腐敗しているのか?

本書に出てくる理由は<水産庁が漁業関係者の短期的な利益追求にそって行動しているから>というくらいで、腐敗というほどでもない。農業・林業に比べればよっぽどマシだ。しかし、その帰結は非常に悪い。こんな典型的な「共有地の悲劇」(集合行為問題の一種)が現実にありえるんだろうかと不思議に思う。言ってしまえば水産庁・漁業関係者の"自爆"に見える。

●日本の漁業の問題点は何か?

(a)「オリンピック方式」。「早い者勝ち」の方式なので、漁師が小さい売り物にならない魚まで獲ってしまい資源が枯渇。
(b)漁協・漁業調整委員会が参入障壁。漁協が漁業権の主体になっており個人で漁業権を得て沿岸漁業・養殖業を営むことができない。

●(a)「オリンピック方式」

オリンピック方式とは漁獲可能総量(TAC)を毎年設定しそれに達した時点で漁獲を制限するもの。TACは日本全体で定められるため、各漁師は「早い者勝ち」で漁をする。それによってまだ成長しきっていない魚を獲ることになる。よって安い値しか付かない。魚が極端に小さい場合、売り物にならない。よって漁師の収入が低い。よって後継者問題が生じる。漁船などにも投資できない。よって余裕がなくなりますます短期的利益を追求し、「早い者勝ち」で漁をする。という悪循環(ポジティブ・フィードバック)。世界の主要な漁業国で「オリンピック」方式を採っているのは日本だけ。

上で述べた日本の漁業の腐敗というのは<漁業関係者が短期的利益の追求のため「オリンピック方式」を維持しようと水産庁にロビイングしている>ということだが、2〜3年、漁獲高を抑えて、魚の回復を待てば、今までよりよっぽど大きな利益が得られるのに、なぜここまで短期的な利益追求に走るのか不思議だ。本書にその答えはなかった。
政府が2〜3年の間、漁業関係者の所得を補償してあげたっていいと思う。

●「オリンピック方式」以前の問題

これだけでも酷いのにさらに続きがあってクラクラする。
TACの他に魚を絶滅から守るのに最低限守るべき漁獲制限も設定されている(ABC)。しかし複数の魚種でTACがABCより多く設定されている。つまりTACを守っても魚は減っていく。なんでこんなことになるのか。ABCもTACも水産庁が設定しているが、ABCの設定に漁業関係者は関わっておらず、TACの設定においては漁業関係者のロビイングが強いため。
さらに続きがある。何とABCが設定されているのにTACが設定されていない魚種の方が多い。このような魚は獲り放題だ。ABCが設定されていている魚種38のうち31はTACが設定されていない。
さらに続きがある。売り物にならないほど小さい魚は獲らない、産卵期前後の脂の乗ってない時期は獲らないなどの基本的な規制もない。

●「オリンピック方式」の問題を解消するには?

オリンピック方式をITQ方式に改革する。ITQ方式とは個々の漁師ごとに漁獲高を割り当てるIQ方式において漁獲高を売買(や賃貸借)できるようにした方式。ノルウェーアイスランドアメリカ、ニュージーランドなど先進的な漁業国すべてで採用されている。
ノルウェーアイスランドアメリカなども以前はオリンピック方式をとっていたが、80年代までにITQ式に改革した。ノルウェーでは70年代今の日本と同じ問題を抱えたが、78年のITQ方式導入により以前の漁獲量まで回復した。その間、漁業就業者数は1/8になったので生産性は8倍になったといえる。現在ノルウェーの漁師の平均収入は約900万円。年齢も若く20、30代の漁師が全体の4割。一方、日本の漁師の4割は60歳以上。


ITQ方式のメリットは、(1)漁獲は重量と匹数で管理され、なるべく価格の高い魚(成長しきった魚)を価格の高いとき(旬)に獲るようになる。(2)非効率な漁師は漁獲割当を売り市場から撤退するので効率性が上がる。(3)「早い者勝ち」でないため燃料を節約でき、低コスト化が可能となる。(4)外国と漁獲割当を売買できる。
デメリットは、海産大手が参入し、寡占化が進むと言われる。これに対しては割当の上限を設けたり、小規模業者に優先的に割当てればよい。

●(b)漁業権

漁業権制度の対象は漁船を使用しない沿岸漁業・養殖業。漁業権の主体は漁協。個々の漁師ではない。漁業に加入しなければ沿岸漁業・養殖業ができないのは不当な参入規制。しかも法定の設立要件を満たしていない漁業が多い。それなのに水産庁が実態を情報公開せず放置している。
漁業権の付与は漁業調整委員会が行う。農業委員会と似ている。行政委員会の一種で、委員の過半数は漁業関係者の選挙で決まる。よって既得権維持のため新規参入を制限しようとする。
また漁業権は譲渡できないので漁業から買って参入することもできない。

●漁業権の問題を解消するには?

漁業権を競争入札とする。そして漁業権の使用料を徴収する。