フランス・アメリカ・ドイツ著作権法におけるパロディ規定:文化審小委「パロディー」規定検討へ

日経新聞より。
http://www.nikkei.com/article/DGXBZO42306130X00C12A6000000/

著作権にまつわる法制度を検討する文化審議会文化庁長官の諮問機関)の小委員会が7日、今期の初会合を開き、既存の著作物をパロディーとして改変・2次創作する行為について、今期の検討課題として取り上げることを決めた。現行の著作権法にはパロディーに関する規定がないが、インターネット上の動画共有サイトなどでの2次創作が活発に行われていることから法整備を目指す。ただし、パロディー作品に対する関係者の認識は一様でなく、法制化には曲折も予想される。


 パロディー作品は、著名な絵画や楽曲を一部書き換えたり、漫画やアニメなどで元の作品の世界観や登場人物を流用しながら新たなシナリオを考えたりして、元の作品とは別の新たな作品として発表するもの。中には、内容の良さや芸術性の高さなどで高い評価を得るパロディー作品もある。


 これまで日本の著作権法ではパロディーに関する規定が存在しなかった。このため、現行の著作権法を厳密に適用すると、パロディーは「同一性保持権」の侵害にあたり、元の作品の著作者に許諾を得ない限りは違法となる可能性があった。しかし、近年はインターネットの動画共有サイトなどを中心にパロディーによる2次創作が本格化しており、実情に合わせた法体系の整備を求める声が高まっている。
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1.なぜパロディ規定が検討されるのか

まず「なぜパロディ規定が検討されるのか」について日経の記事の説明では不足だと思うので自分の理解を書いておく。

元の著作物とそれに基づく著作物とがあるとする。後者の著作物が前者の著作権を侵害するかどうかは次のように考える。なお、パロディは当然後者の一例。

後の著作物を見て、元の著作物の本質的特徴を直接感得

  • できる場合→侵害(複製・翻案)
  • できない場合→非侵害(別個の著作物)

というのが基本的な基準(江差追分最高裁判決)。


一般にパロディは元の著作物への言及であると考えられる。なのでパロディを見て元の著作物が何か分からないと意味がない。よって一般にパロディは上の基準で「感得できる→侵害」になる。
しかし、パロディには社会的意義があるとも考えられるので、原則侵害になるパロディを例外規定で救済してあげようかしら、というのが今回問題になっているのではないか。このような例外規定で有名なのがフランス著作権法で「パロディは著作権侵害にならない」と規定している(122条の5第4項)。


「じゃあフランス法のパロディって何?」ということが気になるが、本記事の審議会で報告された報告書*1に諸外国のパロディ規定の比較法的調査が載っていたので、次にこれをメモしておく。

2.フランス法でパロディと認められる要件

(1)主観的要件
パロディを行う意図・目的がユーモアであること。
(2)客観的要件
パロディを行った者と元の著作者が別人であると分かること。


(1)のユーモアはフランス文化について詳しくないとそれが何を指すか理解するのは難しそう。風刺はユーモアに含まれるが、抗議・オマージュは含まれないという。

(2)が興味深いのは商標法の出所の混同防止と同じだという点。パロディと元の著作物の出どころが別だということが見た人に分かるようになっているかをパロディと非パロディの線引きに使っている。

3.個人的感想

日本法でもこのようなパロディ独自の要件を追加してそれに当たれば侵害にならなくなるようにしてもいいかもしれない。ただ報告書でも指摘されているように、パロディは各国固有の文化的背景の影響が大きい分野だという気がする。フランスと風刺ってすんなり結びつくが日本のパロディ(記事の指摘するMAD動画)に風刺がどれだけあるか疑問だ。


まあ、最後は「侵害から救済してあげるべきパロディがあるよね」と関係者(官僚・委員・政治家)が思うかどうかだろう。あると思えばそれに合わせた要件が考えられるだろう。このあたりはフェアユース規定の検討と同じ事の繰り返しになるのではないか。フェアユースの際も映り込みなどの救済してあげるべき事例を個別に救済する方向に動いたので。


以下、おまけとしてアメリカ法とドイツ法についてメモ。

4.アメリカ法でパロディと認められる要件

アメリカ法にパロディ規定自体はないが、一般規定であるフェアユース規定(107条)に含まれる。アメリカでパロディというと必ず出てくる判決がプリティウーマン事件(キャンベル事件)。2 Live Crewというヒップホップグループが映画主題歌として有名な「プリティウーマン」をサンプリングして訴えられた事件。曲は多分これ
この事件でも、当然パロディと認められるかどうかが直接問題になったわけではなく、パロディがフェアユースの4要件(要素)に当てはまるかどうかが問題になった。裁判所は4要件を検討してフェアユースとして認めた。


なお、判決はパロディ自体にも言及している。

パロディの定義の要点、そして既存の資料から引用することについてのパロディストの主張の核心は、先行する著者の作品に、少なくとも部分的に、コメントするような新しい作品を創作するために、その先行する著者の作品の要素をいくらか使用していることである。逆に、もし批評が原作品の中身やスタイルに批判的な関係を持たず、侵害者と主張されている者が、単に注意を引いたり、完全に新しいものを作ることに伴う重労働を避けたりするために原作品を利用するのなら、それに応じて他人の作品から拝借することを公正と主張する資格は弱くなり――それが消滅しないとしても――商業性の程度のような他の要素がより大きな意味を持つ。

やはり批判が重要で、自分で作れないから借りるというだけではパロディとして救済されないということのようだ。MADに批判はないような。

5.ドイツ法でパロディと認められる要件

ドイツ法にパロディ規定はないが、著作権の権利範囲の規定や引用の規定の解釈論として展開されている*2

(1)批判・滑稽さがあること。
(2)反主題性があること。

(1)はフランスと似ている。(2)が独特だが、その意味するところは「パロディと元の著作物が同じ主題であること」だそうだ。主張が対立しているということだろう。またパロディと原著作物の関連が明瞭であることも要求されるとのこと。よって単なる本歌取りは反主題性を欠きパロディと認められない。

*1:http://www.bunka.go.jp/chosakuken/pdf/chosakuken_toriatsukai.pdf

*2:日本も引用の解釈論でやるということも考えられるがパロディーモンタージュ最高裁判決があるので難しいかも。