オンライン海賊版ゲーム ユーザーも初摘発へ:このような摘発は問題だ

産経新聞より。

オンライン海賊版ゲーム ユーザーも初摘発へ 神奈川県警 
2012.9.5 02:00
 オンラインゲームのプログラムを不正に入手し、別のサーバー上で正規ゲームと同様のゲーム空間を作り出した上で多数のユーザーにプレーさせたとして、神奈川県警が近く、著作権法違反容疑でサーバーを管理していた大阪府八尾市に住む20代前半の男について、書類送検する方針を固めたことが4日、捜査関係者への取材で分かった。

 このゲーム空間が違法な“海賊版”と知りながらプレーしていた複数のユーザーについても同容疑で書類送検する方針で、ユーザーにまで同法を適用した摘発は全国初になるという。

 捜査関係者によると、男はIT会社「エヌ・シー・ジャパン」(東京都)が運営する、多人数が同時に参加して2グループに分かれて戦う人気オンラインゲーム「タワーオブアイオン」のゲームプログラムを入手し、海賊版となるゲーム空間を作り出して多数のユーザーにプレーさせていた疑いが持たれている。
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http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120905/crm12090502000001-n1.htm


オンラインゲームのプログラムを別サーバに不正にコピーしてサービスを提供していた人が書類送検されるという記事。それはいいのだがこのゲームのユーザーも書類送検されるという。著作権侵害とだけ書いてあるが具体的に何なのか不明。またオンラインゲームのデータの持ち方がどうなっているのかも記事からは不明。
なのでユーザー側で複製しないという仮定が必要だが、この事件にはムカっと来たので簡単に取り上げたい。


ネットの浸透にともないそれらに対する著作権法の締め付けが強化されているというのはよく知られている。この事件もその一例だが、著作権侵害のオンラインゲームのユーザーまでも著作権侵害とするのは問題だ。
なぜかというと著作物の利用を著作権侵害とするからだ。著作物の利用とは古典的な例を挙げると、本を読む、絵を見る、レコードをかけて音楽を聞くなどだ。これらは著作物に関する人の行為のもっとも基本的なものだが著作権法はこれらを規制対象にしていない。正確にはしていなかった。海賊版の本を読んでも、贋作の絵を鑑賞しても、ブート盤を聞いても著作権侵害にはならない。
なぜかというと著作権はそもそも著作権者(出版社など)が著作物(本など)の流通を支配して利益を得るための制度として発展してきたからだ。そして著作権者が流通を支配するために目をつけた行為が複製だ。著作物を流通させるには複製するしかないからだ。例えば、本を流通させるには大量に印刷するしかないわけで、一冊の原本を回し読みしても流通にはならない。よって複製が規制対象になり、著作権は英語で「コピーライト」と呼ばれる。


ネット時代の著作権法の締め付けが厳しい理由の一つはネット上では利用行為についても複製がついてまわるからだ。以前話題になったブラウザのキャッシュなどがその典型的な例だろう。ウェブを見るという本を読むというくらい基本的な利用行為にもキャッシュという複製がともなうということだ。
これだけでも著作権法はネットにとって邪魔だということが分かる。それなのに、本件で警察は複製をともなわないユーザーの利用行為(ゲームをやる)までも著作権法で規制しようとしている。このような規制はネットでの行為が複製をともなうという技術的な理由で著作権法の規制対象になってしまったのをいいことに、ネット上での行為は利用行為であっても規制しようという動きであり問題だ。
著作権法の本質的な問題、すなわち著作権法は誰のために何を規制するのかを議論せずにこうやって規制対象だけ広げるのは本当に腹が立つ。