ホリエモンの人気の理由は何か?
いや、人気があるのかは知らないが。自分は結構好きだ。
さて、私の考える人気の理由は堀江氏が1.気合が入ってるから、2.現代の日本人にとって時代性をもっているからというものだ。
気合というのは以前のエントリで述べた<全体とのつながり>への信仰があるということだが、この信仰はキリスト教とか仏教などの信仰に限定されないものだ。しかし、この信仰を説明するのは難しいので、2.時代性という点から説明し、その中で1.気合についても言及したい。
1.時代性とは何か?
上で使った時代性という言葉の中身は
- (1)手段としての合理主義
- (2)目的としての<強度>に対する欲求
である。言い換えると(1)は合理主義という手段を身に付けていて、(2)は<強度>という価値観で動いているということ。
また(1)をインストゥルメンタル、(2)をコンサマトリーと呼ぶことができる。宮台真司氏(首都大)が使っていた図式だ(例えば『まぼろしの郊外』(1997))。ネタモトはタルコット・パーソンズのようだ。佐々木俊尚氏もこの図式を借用していた(『ライブドア資本論』(2005))。そもそも自分が堀江氏の本を読むようになったキッカケは、佐々木氏が宮台氏の図式を堀江氏に当てはめているのを読んだことだ。
(2)の<強度>というのも宮台氏が使っていた用語。ネタモトはニーチェだという。ここで<強度>に対する欲求とは何か。<強度>を求める行動の特徴として
- 「それ自体が目的」「意味がない」
- 高揚感・一体感がある
が挙げられる。
今までこのブログで<強度>を求める行動を色々と紹介してきた。例えば、イギリス暴動やフジテレビデモやtwitter炎上など。
堀江氏もこのような行動原理で動いているということ。例えば、ライブドアという会社の経営自体が目的で、それ以上の<意味>はなく、そこから高揚感・一体感を得ていたということ。同じ指摘は、例えば小田嶋隆氏がしている(浅羽通明、池田信夫ほか『ライブドアに物申す!!』(2006))。よって私は「堀江の目的はカネだけだ。堀江は拝金主義者だ」という主張には賛成できない。
2.なぜ堀江氏に時代性があるのか?
堀江氏に時代性があるのは、この手段と目的が重要だと多くの日本人が(意識・無意識問わず)考えているためだと思う。私も重要だと思っている。
特に、この二つが組み合わさっている点が興味深い。
3.なぜ合理主義という手段と<強度>という目的は重要だと思われているのか?
この問いには自分もまだ確たる答えをもっていない。なので今は例を示すことしかできないが、
(1)合理主義という手段が重要だという考えの表れは、例えば、自己啓発本だとかライフハックだとかそういったものが人気であること(「〜する10の方法」)。
(2)<強度>という目的が重要だという考えの表れは、上に挙げた本ブログで紹介した様々な事例に見られる。
4.堀江氏の合理主義と<強度>
堀江氏の(1)合理主義は誰もが気づく特徴だろう。いろいろと日本の非合理を指摘している。ただ、その合理主義が極端すぎる。言い換えると過剰だ。同じ指摘は、例えば対談で勝間和代氏がしている(勝間和代、堀江貴文、田原総一朗『嫌われることを恐れない突破力!』(2010))
堀江氏においては、その過剰な合理主義が日本社会の現状に対する抗議として用いられている。そして行き過ぎてエスタブリッシュメントを怒らせ特捜にやられたというのが堀江氏本人のライブドア事件への理解だ。
この過剰さに私は氏の<全体性>への信仰を感じる。<全体性>への信仰とは、現象学や実存主義の言葉で言えば<超越>ということになるだろうか。合理主義は合理的だが、過剰な合理主義は合理的ではない。ではなぜ堀江氏は過剰に合理的なのか?その答えが私には<全体性>への信仰以外に思い当たらないということだ。
東浩紀氏との対談で堀江氏は「なんでそんなに合理的なの?」「日本社会の非合理に文句をつけるの?」と訊かれ、「おせっかい」と答えている(『収監』(2011))。この「おせっかい」が自分にとっては<全体とのつながり>への信仰だ。合理主義の対象が自分のことに限定されておらず全体性を志向しているので。
以上が冒頭で予告した堀江氏が1.気合が入っている理由だ。
堀江氏の(2)<強度>としては、ロケット打ち上げがもっとも分かりやすいだろう。ロケット打ち上げの手段は合理的だ。しかし、ロケット打ち上げという目的は"夢を追う"といったイメージを与え、合理的とはほど遠いものだ。やはり目的は宇宙という<強度>を得ることだといえるのではないか。宇宙へ行く=地球を出るというのは文字通り<超越>だし。アメリカの成功した経営者もよく宇宙を目指すが、理由はやはり<強度>が欲しいからだろう。<強度>を求める価値観は堀江氏と本も出している西村博之氏にも共通する。西村氏の人気の理由も堀江氏に近いものだろう。しかし、私は西村氏からはあまり<全体とのつながり>への信仰を感じないので気合が入っているとは思わないのだが。
5.堀江氏の著書
以上のような理由で、私は堀江氏の本を読んでいる。つまり堀江氏の「気合」と「時代性」を知りたくて読んでいる。しかし、堀江氏の「気合」と「時代性」は著書に表れるよりも堀江氏の実際の言動に表れている。なのでそもそも著書にはそれほど重点を置いていない。さらに堀江氏の著書自体はあっという間に読める読みやすさがなければとても読まないような平均値の低さだ。
しかし、こういう本にも効用はある。読んでも読んでも進まない分厚い本をいったん休んで、こういう本を手に取って読み終えると読書に勢いがつくという効用だ。この効用は松岡正剛氏も指摘している(例えば『多読術』(2009))。
ということで、これからしばらく堀江氏の著書の紹介をすることにしようと思う。
【関連エントリ】
- 堀江貴文『0311再起動』
- 堀江貴文『お金はいつも正しい』
- 堀江貴文、茂木健一郎『嫌われ者の流儀』
- 堀江貴文『収監』
- 堀江貴文、成毛眞『儲けたいなら科学なんじゃないの?』
- 堀江貴文『成金』
- 堀江貴文『ホリエモンのとりあえず最後の言葉』
- 堀江貴文『ホリエモンの宇宙論』
- 堀江貴文、上杉隆『だからテレビに嫌われる』
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