東洋経済新報社編集部『震災からの経済復興』
2011年の本15冊目。今回も14冊目養老孟司ほか『復興の精神』に続いて震災関連の本書を。以前東電 実質国有化へ:賠償スキームと送発電分離案というエントリで紹介した八田達夫氏の東電賠償スキームは本書で読んだものだった。
また、この読書メモには書いていなかったが、最近よく読んでいる元水産庁の小松正之氏の文章を読んだのも、この本が初めてだった。
本書の評価としては、事故の前から原発・電力業界に詳しかったと思われる寺島実郎氏と八田達夫氏の執筆部分がよかった。本全体としてはありがちなことだが、出来不出来の差が大きい。寺島氏、八田氏と竹中平蔵氏だけなら★4つにするかなというところだが、全体を平均するとやはり★3つだろう。
- 作者: 東洋経済新報社出版局編集部
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2011/07/27
- メディア: 単行本
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東洋経済新報社編集部 編『震災からの経済復興』(2011)東洋経済新報社 ★★★
今まで何冊か読んでいる経済復興もの。本書は主に経済学者の論文をまとめたもの。好きな経済学者の一人である八田達夫氏が目当て。他にも著書を継続して読んでいる土居丈朗氏(慶応大)や、竹中平蔵氏(慶応大)、柳川範之氏(東京大)、伊藤元重氏(東京大)なども。さらにリチャード・クー氏、寺島実郎氏、浜矩子氏など名前はよく見かける人も。
【寺島実郎】
●復旧ではなく復興を
震災前と同じに復旧してもダメ。例えば、漁業権という既得権をもつ漁業関係者は復旧を目指す。
●復興税か復興債か?
復興財源として無利子国債を提案している。無利子の代わりに相続税を減免するというメリットをつけるという。
原子力エネルギーは安価ではない。事故コストを考慮していないため。
原子力は生態系のシステムの外にあるエネルギー。
東電(電力会社)の原子力部門を分離して国営とすべき。
【八田達夫】
この八田氏の章が最も良かった。自分の感覚では「常識的」で納得がいく。自分の感覚に少しは自信がもてた。さすが教科書にあれだけ電力業の事例を引くだけあって事故以前から原発に詳しそうだ。
原子力エネルギーは安くない。
- (1)最終処分の方法が決まっていないので処分コストが不明。最終処分場建設のためのコストは間違いなく高くなる。六ヶ所村では使用済み核燃料の一部しか処理できないのに18兆円ものカネがかかっている。
- (2)事故コストを考慮していない。
東電は原子力は安いという神話を維持するために政治家・マスコミにカネを使ってきた。その資金源は独占。総発電分離により発電の独占を失えば神話を維持する資金力はなくなる。
●賠償スキーム
まず東電が資産を売って原資を作る。具体的には発電部門。株主・債権者保護になるのを防ぐため。発電部門は自家発電を行っている事業者やPPS、他地域の電力会社、外国企業などが買う。ただし原子力発電は国が買う。このあたりは寺島氏と共通。
次に政府が税金で賠償。賠償金を電気料金に転嫁すべきではない。企業の海外脱出につながるから。
旧東電は発電部門を売っても賠償金が足りないだろうからその時点で破綻させる。送電部門は国に売り、国が送電に特化した新東電を発足させる。送電料金は政府が規制する。
送電は規模の経済がある。よって独占が認められてきた。しかし発電には規模の経済があまりない。よって総発電を分離し、発電事業者間で競争させるべき。
●電力市場
電力市場の制度について詳しく論じている。
●なぜカリフォルニアの大停電が起きたか?
電力自由化の途中だったため。卸売りは完全自由化されていたが、小売は上限価格が残った状態だった(翌年廃止する予定だった)。そこで大口需要家は安い上限価格で大量に買おうとしたが、発電会社はカリフォルニア以外で売ろうとした。よって供給不足により停電となった。
このあたり八田氏はやはりしっかりしている。こういう具体的な話もなしに「電力自由化はダメだ」という議論がよくなされる。一方「規制緩和が足りないから失敗したんだもっとやらないとダメだ」という議論の危険性もある。成功するまで規制緩和し続けるハメになるから。
【土居丈朗】
●復旧ではなく復興を
●復興庁
復興庁を東北州につなげ道州制の先例にする。地方の判断に委ねるべきだから。例えば、東北の漁港と病院の再建のどちらを優先するかは農水省・厚労省が決めるべきではない(決められない)。組織としてはトップに政府との連絡のできる国務大臣を置くがその下は東北の自治体職員で構成し、官僚を入れない。
【柳川範之】
【竹中平蔵】
竹中氏の議論も自分の感覚に近い内容だった。
●復旧ではなく復興を
サンクコストのない街づくりができる。
●エネルギー政策
リアリスティックに考えて言うなら、当面、原発なしで日本のエネルギー問題が解決するとは思えない。原発には反省すべき点がたくさんあることを考えれば、原発の新増設は控えるしかない。[・・・]今ある原子力発電所の安全基準を飛躍的に高めてこえを活用し[・・・]時間を稼ぎ、大きな技術進歩を待つということしか当面の方策はないだろう。(p.185)
これが常識的だと私も思う。
●賠償スキーム
東電は債務超過になれば一時国有化し、民間に売却できるものは売却し、できないものは国が維持するしかない。これは足利銀行でも取られた方式。
まず株主が負担し、その後、債権者が負担し、最後に国が税か電力料金値上げで負担すべき。
これも過激な考え方でも何でもなく、ごく普通の考え方だ。(p.187)
これも私の感覚では常識的だ。
「総発電分離せよ」も主張している。
【リチャード・クー】
●復興税か復興債か?
復興債。そうすると「国債金利が上昇して大変なことになる」という批判する人がいるが誤り。今、日本の国債が低金利なのは日本の機関投資家が低金利を受け入れているから。機関投資家が国債を買わないと、日本経済が破綻し、自分たちも破綻することを知っている。これはちょっとおもしろい。確かに「日本の金融機関が国から簡単に逃げられるのか?」と問われれば疑問だ。
【浜矩子】
オバマの一般教書の中に「向こう五年間で輸出倍増」「これから先、世界で生まれ出る雇用のすべてはアメリカから生まれるものでなければならない」とある。うそ臭いがどうだろうか。前者は正しいが、後者は?
また「日本は世界一の債権国だ」ということを強調している。それ自体はいいが、だからどうしろと?
【伊藤元重】
●復興税か復興債か?
復興税。しかも「消費税アップでやれ」と言っている。これは・・・。
●賠償スキーム
JALと同じ方式にするとJALのように元と同じ非効率な企業ができるだけ。JALの失敗は元に戻したことだ。
改正信託法でも農業関係者の反対で信託の対象にならなかった農地を信託の対象にすべき。