未成年者飲酒問題:未成年者飲酒が違法であること自体が疑わしい

現実

毎日新聞より。http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110823k0000m040055000c.html?toprank=onehour

光星学院:野球部員3人が飲酒 ネットで判明、停学処分に

 夏の甲子園で準優勝した青森県代表、光星学院高(八戸市、法官新一校長)野球部のベンチ入り選手3人が昨年末に飲酒していたことが分かった。学校側が22日会見し、3人を停学処分とする方針を明らかにした。

 会見した法官校長によると、同日午前、野球部員が飲酒を自慢するような書き込みがインターネット上に載っていることが判明したという。部員らに対する調査の結果、昨年12月の冬休み中、県外出身の部員3人がそれぞれ帰省先で飲酒したことを認めた。

 同高は調査内容を県高野連に文書で報告し、今後の対応は高野連の指示を仰ぐという。法官校長は「野球を愛する者への背信行為。指導の至らなさを痛感している」と語った。

 同高は同日午前、甲子園から戻ったナインの出迎え式を開いたばかりだった。祝勝報告会が予定されていた25日、全校生徒に不祥事を知らせるという。【松沢康】

飲酒問題のキッカケは学生自身のネット上での自白だ。これは最近本当に目に付く話で非常にありふれている。よってこの点は措いておく。
自分としては、そもそも未成年者の飲酒を違法とすること自体を疑っている。
未成年の飲酒は未成年者飲酒禁止法1条で違法とされている。

第1条 満二十年ニ至ラサル者ハ酒類ヲ飲用スルコトヲ得ス
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/T11/T11HO020.html

抽象

本規定の趣旨(正当化根拠)はイマイチ分からないが、まず以下の2パターンについて考えてみる。
1.リベラリズム(侵害原理)の見地からは、未成年者が酔って騒ぐ・暴れる等して他者に危害を及ぼすから。
2.パターナリズムの見地からは、未成年者を飲酒による健康被害から守るため。

1.リベラリズムによる未成年者飲酒禁止(違法化)は疑わしい。
なぜなら騒ぐ・暴れるなどして他者に危害を加えるのであれば、侵害原理違反なのでそれに相当する刑罰が定められているのが普通なので。他者に危害を加えているのに刑罰がないなら、それは法の欠缺。

2.パターナリズムによる未成年者飲酒禁止(違法化)も疑わしい。
パターナリズムリベラリズムにおける自己決定の例外としてある程度は認めざるを得ないと考える。しかし、未成年者を酒による健康被害から守るという法益であれば、別の手段で確保すればよい。具体的には、現に同法2〜4条で未成年者による酒の提供を罰することで確保されている。

以上から未成年者の飲酒を違法とする本規定の意義は疑わしい。しかし、直ちに「じゃあ合法化しろ」とすっきりするわけでもない。

3.功利主義による未成年飲酒禁止(違法化)
例えば、ノーベル経済学賞受賞者のゲーリー・ベッカー(シカゴ大)はドラッグ合法化を主張する(『ベッカー教授の経済学ではこう考える』)。しかしドラッグが合法化され、あまりに多くの人びとが中毒になってしまうと、暴行・傷害などの刑罰を個別に課していくより、ドラッグの使用・所持・販売を違法にした方が、犯罪が減り<最大多数の最大幸福>に資する。例えば、イギリスでドラッグを合法化していたらもっと暴動が酷くなっていたかもしれない。このような功利主義的考慮により単純にドラッグ合法化はできない。飲酒についてもドラッグと同じ根拠で本規定を理論的には正当化しうる*1

現実と抽象

しかし、今の日本の現状を考えれば、3.の正当化根拠も当てはまらないだろう。なぜなら、実際に未成年者の多くも飲酒しているが、個別の刑罰を課すことで対応し切れないような状態ではないから。よって、自分の結論としては<本規定の正当性は疑わしい。功利主義的な考慮をした上で、問題がなければ、規定を削除し、未成年者の飲酒を合法化すべき>となる。

なお、本規定は4.道徳的判断から置かれているというのが<ホンネ>ではないのか。
4.道徳的判断による未成年者飲酒禁止(違法化)は完全に疑わしい
これは<法と道徳の一致>だ。これはリベラリズムに反する。憲法を見れば分かるように、日本はリベラルデモクラシーの国家なので<法と道徳の一致>は憲法にも反する。例えば、表現の自由政教分離(信教の自由)は<法と道徳の分離>のためのものといえる。
しかし、この<法と道徳>はリベラル・コミュニタリアン論争そのものとも言える。例えば、マイケル・サンデル表現の自由政教分離リベラリズムに基づいて解釈され運用されているとしてアメリ憲法史を批判的に紹介している(『民主政の不満(上)』)。
根本的には非常に難しい問題だ。

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*1:ベッカーは合法化した方が犯罪が減るという功利主義的な根拠から合法化を主張しているのだが。