続・未成年者飲酒問題:法と実態の乖離はダブルスタンダードを生む

産経新聞より。http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110823/crm11082310490009-n1.htm

地元商店もフェア中止、横断幕撤去…お祝いムード一変 光星学院飲酒問題
2011.8.23 10:48
 夏の甲子園で準優勝した光星学院野球部員による飲酒問題は、青森県勢42年ぶりの決勝進出という快挙に湧いた地元に冷や水を浴びせかけた。商店は「フェア」などの中止を決定。準優勝を讃える横断幕も撤収されるなど、お祝いムードは一変した。

 青森県内でレジャー施設や飲食店を展開している「朝日会館」(弘前市)は同校の準優勝を受け、「光星学院! 元気をありがとう! サンキューフェア」と題した割引イベントを実施していたが、飲酒問題が発覚した23日に中止。同社は「飲酒問題が発覚したため」と理由を説明した。

 地元の八戸市役所は「準優勝おめでとう」と同校をたたえる縦90センチ、横9メートルの看板を制作、市役所玄関に掲出する予定だったが、23日に取りやめた。

 同市役所の担当者は「市民からは準優勝をたたえる声もある一方、『高校生が飲酒とはけしからん』という指摘も受けている。市民感情に配慮した結果」としている。

前回のエントリでこの光星学院騒動に関連して未成年者の飲酒を合法化すべきと書いた。また、未成年飲酒禁止の<ホンネ>は道徳だろうと書いたが、この記事の『高校生が飲酒とはけしからん』というのはまさに象徴的。

さて、今回は未成年者飲酒禁止法を現状のままにしておくことの問題について述べたい。その問題とは<法と実態の乖離がダブルスタンダードを招いているのではないか>ということ。ダブルスタンダードは以前のエントリでも触れたが<両立不可能な基準の適用を機会主義的に主張すること>。
本件における<法と実態の乖離>とは何か。
例えば、未成年者の酒による健康被害といえば、大学の新歓での急性アルコール中毒などが典型的だろう。それなのに実態としては、大学の新歓で新入生が酒を飲むということに対して、学生の罪の意識は低いと思われる。また、国家(警察)や大学によるパターナリスティックな介入も少ない。なぜなら、警察も大学も学生本人も<タテマエ>では、飲酒は違法ということを知っていても、<ホンネ>ではある程度仕方ないと思っていることだ。
もちろん<タテマエ>が法、<ホンネ>が実態に対応する。
2chでも「マジで高校時代飲んでない奴いるの? もしかして一緒に飲む友達とかいなかったの? 」という書き込みがあった。
http://workingnews.blog117.fc2.com/blog-entry-4228.html

上のような法と実態の乖離は、憲法9条などに見られるように珍しくはない。
しかし、自分はこのような<法と実態の乖離>には批判的だ。なぜなら、以前のエントリでも触れたダブルスタンダードの問題を引き起こすため。本件はそのダブルスタンダード問題の現われではないか。
以下、本件の事実については詳しい情報がないので以下の仮想事例のもとに議論をする。

X校は低偏差値校である。しかしX校は体育系の部活動には力を入れており、スポーツ推薦で全国から学生を集めている。練習は厳しく、運動部では顧問も部員も「ある程度は酒を飲んでも問題ない」と考えていた。学校もそれを容認していた。ある運動部が全国大会で優勝し、全国的にニュースになった。その後、ある部員の飲酒が発覚し報道された。

このような事例では、運動部が優勝しなければ、学校側も学生も<ホンネ>ベースのまま事態は進行し、飲酒の事実もそのままになるだろう。それが優勝したことで学校側は<ホンネ>から<タテマエ>に基準を切り替えざるを得なくなった。ここでダブルスタンダードが発生している。
学生としては「何で今まで見逃してきたのに、優勝した途端手のひらを返すんだ」と怒るだろう。また、手のひら返しを予測して最初から酒を飲まないというのも学生にとっては難しいだろう。まずは優勝することしか考えていないだろうし、優勝するか分からないし。
自分にとっては、このように学生をダブルスタンダードの状況に追いやる方が、酒による健康被害よりよっぽど問題だ。教育的にも問題だろう。学校側のダブルスタンダードを見て、学生も「現実はそうなのか。ダブルスタンダードは仕方ないんだ」と学習し、大人になったときに自分が手のひら返しをするのを自分で正当化するのではないか。

なお、このような<法と実態の乖離>によるダブルスタンダード雪印乳業不二家などの一連のコンプライアンス騒動においても見られた。そういう意味では上の事例もこれらの企業の騒動と同じく学校のコンプライアンス騒動といえる。コンプライアンス騒動における法と実態の乖離については郷原信郎氏が繰り返し論じている。

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