「おすすめの本」新書モダン・クラシックス10選

なるべく多くの人にとって薦められる本ということで、前提知識がなくとも読める新書から選んでみた。
まず、丸山眞男『日本の思想』(1961)や川島武宜『日本人の法意識』(1967)や梅棹忠夫『知的生産の技術』(1969)など<新書の古典>はオススメだ。
ただ、これらは有名だろう。そこで最近10年に出版された<現代の新書の古典>といえそうな新書を選んでみた。選んでみるとやはり有名なものが多いが。


1.飯尾潤『日本の統治構造』(2007)
2.森村進『自由はどこまで可能か』(2001)
3.小島寛之『文系のための数学教室』(2004)
4.池尾和人『現代の金融入門』(1996,2010)
5.梶井厚志『戦略的思考の技術』(2002)
6.友野典男行動経済学(2006)
7.増田直紀・今野紀雄『「複雑ネットワーク」とは何か』(2006)
8.山口厚『刑法入門』 (2008)
9.阿川尚之憲法で読むアメリカ史』(2004)
10.有賀夏紀『アメリカの20世紀』(2002)


このリストのうち経済学は4.と5.と6.。この3冊はすべて池田信夫『使える経済書100冊』(2010)で紹介されている。この本で取り上げている本にはいい本が多い。

以下、1冊ずつ簡単にコメントを。

日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書)

日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書)

★★★★日本政治論・行政学の最初の一冊として最適。冒頭の3章は素晴らしい(それぞれ官僚内閣制・省庁代表制・政府与党二元体制を扱っている)。後半はややパワーダウンするので★4つ。


自由はどこまで可能か=リバタリアニズム入門 (講談社現代新書)

自由はどこまで可能か=リバタリアニズム入門 (講談社現代新書)

★★★★★リバタリアニズムについての最初の一冊として最適。というか類書が少ない。内容が濃くて素晴らしい。著者は一橋大教授、法哲学の泰斗碧海純一門下。自分としては主張には賛成できないがオススメしたい本。


文系のための数学教室 (講談社現代新書)

文系のための数学教室 (講談社現代新書)

★★★★数学・論理学エッセイ。小島寛之氏は東大数学科卒で元塾講師、その後経済学者になった(現帝京大教授)。本書は小島氏らしく、そう易しくない内容を易しく解説する本。扱っているのは次のようなもの。「かつ」「または」「ならば」「でない」、シンタックスとセマンティクス、ゲーデル不完全性定理、フランク・ラムゼイの主観的確率、トポロジーコンドルセパラドックス、アローの不可能性定理、デカルトスピノザパスカルの神の存在証明、ウィトゲンシュタイン言語ゲーム。エッセイなので体系性の点で★4つ。


現代の金融入門 (ちくま新書)

現代の金融入門 (ちくま新書)

現代の金融入門 [新版] (ちくま新書)

現代の金融入門 [新版] (ちくま新書)

★★★★★金融論の最初の一冊として最適。金融の制度論・政策論・歴史について、簡潔にまとまっている。内容が濃くて素晴らしい。旧版は10年以上前だが、新版が出ている。


戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する (中公新書)

戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する (中公新書)

★★★★★情報の経済学の最初の一冊として最適。前半でゲーム理論の概説をして、後半で情報の経済学の重要概念を解説していく。扱っているのは次のようなもの。リスクと不確実性、インセンティブ、コミットメント、ロックイン、シグナリング、スクリーニングと逆選択モラルハザード、値引き競争、オークション。取り上げる例がよい。外し気味のユーモアもよい。


行動経済学 経済は「感情」で動いている (光文社新書)

行動経済学 経済は「感情」で動いている (光文社新書)

★★★★★行動経済学の最初の一冊として最適。内容が濃い。扱っているのは次のようなもの。代表性ヒューリスティクス、アンカリング、プロスペクト理論フレーミング保有効果、ピークエンド効果、公共財ゲームなども。本書の内容をすべてマスターすれば、ほとんどの行動経済学の本を読んでも「ああ、あの話か」と思えるのではないか。


「複雑ネットワーク」とは何か―複雑な関係を読み解く新しいアプローチ (ブルーバックス)

「複雑ネットワーク」とは何か―複雑な関係を読み解く新しいアプローチ (ブルーバックス)

★★★★ネットワーク科学の最初の一冊として最適。ワッツ=ストロガッツモデルとバラバシ=アルバートモデルを中心に分かりやすく簡潔に説明している。ただ直接ダンカン・ワッツ『スモールワールド・ネットワーク』、スティーヴン・ストロガッツ『SYNC』、アルバート・ラズロ・バラバシ『新ネットワーク思考』を読んでもよい気がするし、これらを扱ったマーク・ブキャナン『複雑な世界、単純な法則』の方が読んでいて面白いということで★4つ。


刑法入門 (岩波新書)

刑法入門 (岩波新書)

★★★★★刑法の最初の一冊として最適。刑法入門というタイトルだが、内容は刑法総論の入門。簡潔で無駄がない論理的な文章で素晴らしい。内容が濃い。著者は刑法学の現役世代の泰斗。


憲法で読むアメリカ史(上) (PHP新書)

憲法で読むアメリカ史(上) (PHP新書)

憲法で読むアメリカ史 下 PHP新書 (319)

憲法で読むアメリカ史 下 PHP新書 (319)

★★★★★アメリ憲法の最初の一冊として最適。アメリ憲法のドラマチックさがよく表現されている。著者は作家の阿川弘之氏の長男。その影響か文章が法律本とは思えないほどのよさ。役に立つだけでなく読み物として面白いのが素晴らしい。内容も濃い。上下巻どちらもよいが、下巻の方がより面白い。


アメリカの20世紀〈上〉1890年~1945年 (中公新書)

アメリカの20世紀〈上〉1890年~1945年 (中公新書)

アメリカの20世紀〈下〉1945年~2000年 (中公新書)

アメリカの20世紀〈下〉1945年~2000年 (中公新書)

★★★★革新主義をキーワードにアメリカ史を解説した入門書。革新主義は曖昧な概念だが科学主義・合理主義・啓蒙主義を含む。例えば産官学の連携に表れている。上巻は素晴らしい。下巻は現代に近づくにつれてパワーダウンしてくるので★4つ。




どうでもいいことだが、リスト中の著者11人の出身大学は東大7人、一橋大2人、慶応大1人、早稲田大1人だった。当然、まったく意識せず選んでいるが、だからこそ「そんなものか」と感じた。同様に出版社は中公新書3冊、講談現代新書2冊、ブルーバックス1冊、岩波・ちくま・光文社・PHPが各1冊だった。こちらも当然、まったく意識せず選んでいるが、自分の実感と合っていた。