橋本治『いちばんさいしょの算数1』

以前のエントリで<自分の頭でものを考える>ことが近代社会の前提だと書き、<自分の頭でものを考える>ことについて書いた橋本治『いま私たちが考えるべきこと』の読書メモを載せた。その次に、<論理とは言い換えのこと>で、<バカとは論理のつながりをすっ飛ばす者のことだ>というエントリを書いた。
今回は、橋本治『いちばんさいしょの算数1』の読書メモを。本書は橋本氏が子どもに足し算・掛け算を教えながら、大人には<自分の頭でものを考える>ことや論理について教えてくれる本である(足し算・掛け算はもちろん論理(推論)である)。

橋本治『いちばんさいしょの算数1』(2008)筑摩書房 ★★★

本書はタイトルどおり算数について。全4冊のシリーズだと言っているが、2冊しか出ていないようだ。本書は足し算と掛け算について子どもに教える本。

『勉強ができなくてもはずかしくない』と同様に真面目に子ども向けに書いてある。小学校3、4年の算数の苦手な子どもが読んだら本当に役に立ちそうだ。橋本氏は以前『「わからない」という方法』で編み物のハウツー本を書いたという話をしていた。自分としては、本書も編み物と同じで<地に足をつけて自分の頭で考える>という橋本氏の姿勢が現れているんだろうなと思いつつ読んだ。

算数は言い換え。だから「=」がたくさん出てくる。数学と論理学が同じものだということ、論理は同義反復だということにつながっていて興味深い。どこから言い換えるかというと<公理>から。橋本氏は本書で算数の<公理>として1〜10までの数字と現実のモノ(本書ではチョコボール)を数えるという点から出発している。<地に足をつけて自分の頭で考える>というのは本書では<既に知っていること>に基づいて考えることとして現れている。<数字を1〜10まで知っていてモノを数えられる(ここまでが<公理>)ということはこれだけの足し算を知っていることです>として128個の足し算(方程式)を紹介している。そして<自分はこれだけ知っているということを知ってください><覚える必要はありません。既に知っているのだから>として足し算の部が終る。続く掛け算の部では128個の数式の中から2+2+2+2+2=10のような数式を取り出し10=2+2+2+2+2=2*5と教えている。そして足し算と同様に31の方程式を示して終る。<1+1=2で答えが大きくなるのに1*1=1で大きくならないのは不思議ですよね>といって解説している。確かに帰納法的に考えれば、答えが大きくなると考えるのも自然だ。そのような相手の立場に立って各人の合理性を想像するというのは作家らしい。

いま私たちが考えるべきこと (新潮文庫)

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「わからない」という方法 (集英社新書)

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