3Dプリンタが普及すれば「自炊の森」が3次元版で復活し、3Dプリント代行業が登場する

以前のエントリでローランドDGの一般ユーザ向け3Dプリンタ「iModela」発売の記事を紹介し、3Dプリンタが一般ユーザに普及した場合に起きうる著作権法上の問題を予想した。今回も同様の趣旨で、3Dプリンタが一般ユーザに普及した場合に登場するビジネスを2つ予想してみたい。1つは「自炊の森3D」とでも呼べるものだ。もう1つは3Dプリント代行業とでも呼べるものだ。

1.「自炊の森3D」とは?

現在の「自炊の森」は実在する店舗。顧客が自分のマンガや本を持ち込み裁断し、業務用スキャナーでスキャンするというサービス(これが"自炊"と呼ばれる)を提供している。ただし著作権法上問題があると指摘され、閉店が予定されている。
このように「自炊の森」のサービスは二次元の世界でのスキャン(<アトムからビットへ>の変換)だった。自分が登場すると予想する三次元版の「自炊の森」は三次元の世界でのスキャンだ。つまり顧客が自分のフィギュアなどを持ち込み店側の用意した業務用3Dスキャナーでスキャンするサービスを提供するものだ。3Dスキャン代行業と呼んでもよい。現在の「自炊の森2D」はマンガなどのスキャンデータを生産するが、「自炊の森3D」はフィギュアなどの3D CADデータを生産する。

2.「自炊の森3D」の顧客は何がしたいのか?

顧客はこの3D CADデータを自分で3Dプリンターで"プリント"(<ビットからアトムへ>の変換)してフィギュアを複製することもできるし、ネット上にアップロードして共有することもできる。現在、画像(イラスト)を共有するpixivのようなサイトがあるが、将来は3D CADデータを共有するサイトが登場するだろう。
このような複製に関して著作権法上起こりうる問題を以前のエントリで予想したわけだ。
さて、「自炊の森3D」の顧客が自宅にある3Dプリンターでフィギュアを加工しようとしたとする。このとき顧客の自宅の3Dプリンターは「iModela」のような一般ユーザ向けである可能性が高い。すると「自宅の3Dプリンターではフィギュアを正確に複製できない」と不満を抱くユーザも出てくると予想される。

3.3Dプリント代行業とは?

ここで、このようなユーザをターゲットとして、業務用3Dプリンターを顧客に利用させるサービスを提供するビジネスが登場してくると予想される。これが3Dプリント代行業とでも呼べるものだ。
現在の(2Dの)プリンタやコピー機においても大量部数をプリントする場合に、ユーザに業務用プリンタ・コピー機を利用させるkinkosのようなビジネスがある。また写真を現像・印刷するいわゆる写真屋(写真店)も同様なビジネスといえる。
このような2次元でのプリント代行ビジネスと同様に3次元で業務用3Dプリンターを顧客に利用させる3Dプリント代行ビジネスが登場するのではないか。このビジネスは顧客が持ち込んだの3D CADデータを3Dプリンターで"プリント"し、加工されたフィギュアを作ってくれる。切削だけでなく、色を塗るなど仕上げサービスもオプションとして提供されるだろう。
もちろん「自炊の森3D」がこの3Dプリント代行サービスを提供することもありえる。さらには切削などの設備をもてあましている町工場のような事業者が参入してくるかもしれない。そうなると面白そうだ。

4.3Dプリントメーカの経営戦略は?

このような3Dプリント代行サービスを提供する事業者はだれか。
写真を現像・印刷する現像印刷機写真屋の関係を考えてみると分かりやすい。現像印刷機(ミニラボ機)の最大のメーカは富士フイルムだろう。そしてその富士フイルムが個々の写真店を(資本により支配しているかはともかく)傘下に従えている。
このような写真ビジネスから類推すれば、3Dプリント代行サービスを提供するのに有望な候補はローランドDGのような3Dプリンタメーカだと考えられる3Dプリンタメーカはこのような周辺サービスを提供することで3Dプリントビジネス全体を拡大することができる。
例えば、インクジェットプリンターのビジネスにおいてヒューレット・パッカードやキヤノンなどは、ユーザ向けプリンタ自体は赤字覚悟の低価格で販売し、インクなど消耗品で利益を稼ぐという戦略を採用した。同様に3Dプリンタメーカもユーザ向け3Dプリンタ自体は低価格で販売し、3Dプリント代行サービスなど周辺サービスで利益を稼ぐという戦略が考えられる。
また例えば、富士フイルムのように個々の3Dプリント代行業者を傘下に従えていれば、3Dプリンタメーカは彼らに利益率の高い業務用3Dプリンタを売り続けることもできる。


以上のようにビジネス全体のうち、どこをオープンにして普及させ、どこをクローズにして利益を稼ぐかが重要だ(シャープのガラパゴスについての過去のエントリ参照)。
ただ、3Dプリントメーカが以上のようなオープン戦略をとった場合に、テレビ局・出版社などの著作権者との対立が予想される。この著作権者との対決を避け著作権者に屈した結果、ビジネスでも負けている例は先のシャープにしても「自炊の森」にしても、枚挙に暇がない。よって、このような対決を避けて通ることはできないだろう。スティーブ・ジョブズiTunesでやったような著作権者との対立の解消が3Dプリントビジネスの成功にも不可欠ではないか。困難だが。