一般用語の「二次創作」は著作権法上、何に当たるか?
答えとしては「複製物」「二次的著作物」「別個の著作物(原著作物)」のいずれかに当たる。前半ではこの点を解説したい。
以前のエントリである記事の誤りを指摘した。その誤りは「原著作者の許諾のない二次創作物が著作権侵害になるかはケース・バイ・ケース」という文章。なぜなら「原著作者の許諾のない二次的著作物は必ず著作権侵害」だから(著作権法27条)。
しかし、この記事の文章を善意に解釈するなら「二次的創作物」≠「二次的著作物」なのかも知れない。つまり二次的創作物を「他の著作物に影響を受けて作った著作物」という広い意味に解釈すればこの文章は誤りとはいえない。
なぜか。次のように考えれば分かるのではないか。ある人が他人の著作物Aに影響を受けて著作物Bを作ったが、著作物Bが著作物Aの二次的著作物ではなく別個の著作物とされる場合はある。あらゆる著作物は他の著作物の何らかの影響を受けているといえるから、それをすべて二次的著作物(として侵害)にするのは当然おかしいからだ。
このように考えると、「他の著作物Aに影響を受けて作った著作物B」という広い意味での「二次創作」は著作権法上、以下の3つのいずれかに当たる。
- (a) BはAの複製物→侵害(複製権)
- (b) BはAの二次的著作物→侵害(翻案権)
- (c) BとAは別箇の著作物(Bも原著作物)→非侵害
(a)〜(c)のいずれに当たるかが分かれば、侵害か非侵害か明らかになる。しかし(a)〜(c)のいずれに当たるかはケース・バイ・ケース。
(a)の例として、ポケモン同人誌事件。同人誌の著者が複製権侵害で逮捕起訴された。
(c)の例として、著作物Bが著作物Aのアイデアだけ借用した場合が考えられる。アイデアは著作権法で保護されないので別個の著作物となるからだ。しかし、現実問題としてはアイデアかそうでないかはケース・バイ・ケース。
以上のように考えれば冒頭の記事は誤りではない。しかし通常の日本語の解釈として「二次創作」なのに(c)別個の著作物というのは不自然ではある。「二次」じゃないから。
後半では上の(a)(b)(c)のいずれに当たるかの基準はハッキリしないという点を指摘しておきたい。
(a)と(b)を分ける大まかな基準は、創作性の有無。創作性がなければ(a)で、自分には権利が発生しない。創作性があれば(b)で自分にも創作性のある部分に権利が発生するが、原著作者の権利侵害でもある。
(b)の(c)を分ける大まかな基準は、原著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるか。まあどんな場合にでも当てはまる大まかな基準だ。
学説が提示するよりハッキリした基準としては、例えば次の基準*1
- 著作物Bによって著作物Aの存在が推知できるとき→BはAの二次的著作物
- 著作物Bが換骨奪胎され、著作物Aの存在が推知できないとき→BとAは別箇の著作物
例えば、同人誌を見て、その同人誌の元ネタが分からなければ、別箇の著作物ということになり非侵害。
このように(a)(b)(c)の基準はよく分からない。よって(a)〜(c)のいずれに当たるかはよく分からない。またこの問題に関連する問題として裁判例は(a)と(b)をひとまとめに扱っているという問題もある。(a)でも(b)でも「侵害なんだから同じじゃないか」ということだ。
【関連エントリ】
- 文教堂が同人誌販売開始:承諾なき二次創作は侵害
- 不適法な二次的著作物の複製は侵害か?
- 「不適法な二次的著作物の複製は侵害か?」に触れた裁判例(記念樹事件)
- 違法同人DLサイトを擁護するのに使える著作権法の学説
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*1:半田[2005]p.97