グリーがモバゲーを提訴:法的根拠は何か、なぜ今のタイミングか、なぜKDDIが原告に加わっているのか

10月22日のエントリでグリーがDeNA独禁法で提訴する法的根拠等について書いた(グリーがモバゲーに損害賠償を求め提訴へ:法的根拠は何か、なぜ今のタイミングか、賠償額はいくらか)。そのときの記事は「週明けにも提訴」とあったが、ずいぶん遅れて今日実際に提訴したというプレスリリースが出た。

「グリー株式会社 | ニュースリリース | プレスリリース 2011年 | 訴訟の提起に関するお知らせ」
http://www.gree.co.jp/news/press/2011/1121_02.html

今回は以前のエントリで書いたことと実際の訴訟をプレスリリースに基づき比較してみる。

1.グリーがモバゲーを訴える法的根拠は何か

以前のエントリではこう書いた。法的根拠は独占禁止法25条1項だ。私訴制度(のうちの損害賠償)などと呼ばれる。

第二十五条  第三条、第六条又は第十九条の規定に違反する行為をした事業者(第六条の規定に違反する行為をした事業者にあつては、当該国際的協定又は国際的契約において、不当な取引制限をし、又は不公正な取引方法を自ら用いた事業者に限る。)及び第八条の規定に違反する行為をした事業者団体は、被害者に対し、損害賠償の責めに任ずる

プレスリリースでは以下の記載になっている。

(2) 主な訴求内容は、以下のとおりです。
不法行為に基づく損害賠償請求

一般的な書き方だ。上述の独禁法25条も「不法行為に基づく損害賠償請求」に含まれる。しかし、グリーは25条を根拠にはしていないようだ(本ページ末の【追記】参照)。

25条の規定のうちDeNAは「第十九条の規定に違反する行為をした事業者」に当たるので「賠償の責め」を負わなければならない。
「第十九条」とは次の規定。

第十九条  事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。

DeNAサードパーティがグリーにゲームを提供するのを妨害し公取委に不公正な取引方法と判断され排除措置命令を受けた(朝日新聞記事)。
プレスリリースにも同じことが書いてある。

1.訴訟に至った経緯及び理由
(1)本年6月9日、公正取引委員会は、DeNAに対し、[…]第19条に違反するものとして、同法第20条第2項、第7条第2項第1号の規定に基づき排除措置命令を行いました。

2.なぜこのタイミングでグリーがDeNAを訴えるのか

以前のエントリではこう書いた。法的には独禁法25条の損害賠償請求は排除措置命令が確定した後(時効期間の3年以内)でなければできないので(独禁法26条)、前述のDeNAへの排除措置命令が確定したから今のタイミングなのだろう。横浜ベイスターズ買収問題と関連付けている人たちがいるようだが、どうだろうか。

ロイターの記事はグリー社長のコメントを紹介している。

今回の訴訟のタイミングについては、DeNAの排除措置命令が確定した8月以降に対応を検討してきた結果として「それ以上の意味はない」とした。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-24269820111121

3.DeNAの賠償額はいくらになるか

以前のエントリではこう書いた。グリーとサードパーティの取引を妨害する行為がなければ、グリーが得られた利益と実際のグリーの得た利益の差額を賠償額だろう。
プレスリリースでは以下のような金額になっている。

同損害賠償として、金10億5000万円以上(グリー:9億円、KDDI:1億5000万円)

4.なぜKDDIが原告に加わっているのか

上記3.にも表れているが、原告にKDDIが加わっているというのがプレスリリースで新たに分かった。

2.本訴訟の概要
(1) 当事者
原告:グリー株式会社 KDDI株式会社
被告:株式会社ディー・エヌ・エー

グリーは次のようにKDDIが加わった理由を述べている。

当社と「au one GREE」を共同提供しているKDDI様におかれましては、上記の健全な競争環境確保の趣旨等にご賛同いただき、共同原告として本訴訟にご参加いただくこととなりました。

「競争環境確保の趣旨等にご賛同」しただけでは原告になれない(当事者適格を満たさない)だろう。KDDIもゲームを共同で提供しているため独禁法25条にいう「被害者」に当たるということなんじゃないか。
ちなみに「ご参加いただく」という言葉が気になる。民事訴訟法でいう「共同訴訟」であって「参加」じゃないんじゃないんじゃないか。この前のグリー社長の外国人記者クラブでのプレゼン資料にも言葉の間違いがあった気がする。

日経BPの記事を読むとKDDIの損害はキャリア手数料というものだそうだ。

グリーとKDDIは2011年11月21日、ディー・エヌ・エーDeNA)に対する損害賠償訴訟を東京地方裁判所に起こしたと発表した(写真1)。損害賠償額は10億5000万円以上(うちKDDIが1億5000万円、グリーが9億円)としており、損害額は今後の査定によって増額される可能性がある。
 訴訟の発端は、2011年8月に確定した公正取引委員会によるDeNAに対する排除措置命令。グリーのSNSサービス「GREE」を通してゲームを提供しているゲーム開発会社に対して、DeNAが運営する「Mobage(旧モバゲータウン)」上のゲームのWebサイト上のリンクを掲載しない、という要請をしたことに対して、公正取引委員会が同命令を行った。DeNAは取締役会を通して、以後の同種行為を行わず、今後のコンプライアンスを強化するという発表を行った。
 しかし、「排除措置命令が確定した後も、同様の妨害行為が継続的に行われているという報告があった」(グリーの田中良和代表取締役社長)という。[…]
グリーは2010年8月10日以降GREEを通じて配信されるはずだったゲーム開発会社のゲームの売り上げが9億円、KDDIはその配信時にかかるキャリア手数料が1億5000万円ほど利益を損失していると見積もっている。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20111121/374738/

5.DeNA公取委の排除措置命令に従っていない

グリーはこのように主張している。

DeNAは、昨年12月、上記違法行為を取りやめる方針を示しながら、その一方で、それ以後もMobageでゲームを提供しているソーシャルゲーム提供事業者がGREEでもゲームを提供しようとすると、これを妨害していると思われる

「排除措置命令に従うといっておきながら従わないこと」に対する賠償額の割り増しを定めたような規定は日本の独禁法にはないだろう。アメリカだったら懲罰的損害賠償といって賠償額の割り増しに問題になりそうだが。
また、そもそも今でも妨害が続いているなら差止請求(24条)で妨害を止めさせるよう求めるべきだと思うが。

第二十四条  第八条第五号又は第十九条の規定に違反する行為によつてその利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、これにより著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがあるときは、その利益を侵害する事業者若しくは事業者団体又は侵害するおそれがある事業者若しくは事業者団体に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。


なお、やまもといちろう氏が本件について以下のように書いているが上記1.から誤りだということが分かるだろう。公取委の排除措置命令とそれに続く私訴(損害賠償請求)は一般的だ。

公取が排除措置は出したけど、それは取締役決議事項としてDeNAが諸事対応し、出入りしているアプリケーションベンダーやソーシャルゲーム提供事業者に対して通達を出し、実質的にそのような行為が今後行われなければ良し、とされるものなんじゃないの。
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2011/11/greekddidena10-.html


【追記】
本件訴訟は独禁法25条を根拠にしたものではなく一般的な民法709条を根拠にした損害賠償請求だと思われる。なぜならグリーが地裁に提訴しているため。

本日、東京地方裁判所において、株式会社ディー・エヌ・エー(以下「DeNA」)に対し訴訟を提起いたしました

一方、独禁法25条の訴訟は東京高裁の専属管轄になっている(85条)。

第八十五条  次の各号のいずれかに該当する訴訟については、第一審の裁判権は、東京高等裁判所に属する。[…]
二  第二十五条の規定による損害賠償に係る訴訟

この点を本エントリを書いた時点では見逃していたので追記した。


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