SOPAの問題点はアメリカ法の域外適用

SOPA(Stop Online Piracy Act)という法案が米下院にかかっており話題になっている(例えばこの記事とかこの記事)。「どんな法案?」と思ったのでとりあえずwikipediaを見てみた。今回はその内容を現時点の段階で紹介する。

1.wikipediaの内容

Title I of H.R. 3261 provides enhanced enforcement tools against foreign infringing websites in two different ways. Section 102 of the bill authorizes the Attorney General to initiate federal court enforcement procedures against criminal activities conducted on foreign infringing sites."Foreign infringing sites" are those that engage in trademark counterfeiting, copyright infringement, or theft of trade secrets and as such would be subject to seizure if they were domestic Internet sites.
http://en.wikipedia.org/wiki/Stop_Online_Piracy_Act

第1編の102条に「アメリカ司法長官が外国の侵害者に対し連邦法上の刑事手続を開始できる」とある。ここで侵害者とは「商標・著作権・営業秘密などをアメリカ国内の基準で侵害するウェブサイトの運営者」のことだとある。

2.SOPA法案の該当箇所

法案の中で自分が見つけた関連しそうな箇所は以下だが、本当にwikipediaの言う通りなのだろうか。

(b) ACTION BY THE ATTORNEY GENERAL.
(1) IN PERSONAM.―The Attorney General may commence an in personam action against
(A) a registrant of a domain name used by a foreign infringing site; or
(B) an owner or operator of a foreign infringing site.

3.SOPA法案の問題点

「グーグルやフェイスブックがプロバイダー(ISP)の責任が過大になるとSOPA法案に反対している」という点がニュースになっているが、そんなことは大した問題ではない。なぜか。wikipediaが正しければ、この法案は日本でサイトを運営している人がアメリカの知財を侵害したら、アメリカの裁判所で刑事手続が開始される可能性を認めているからだ。こちらの方がよっぽど問題だろう。


もし本当ならまったく無茶苦茶な法案だ。「属地主義とは一体なんだったんだ?」ということになる。国際私法学の観点から見ても到底受け入れられないのではないか。当然このような法案を成立させたいのはアメリカの著作権者ら(「狭く強い利害」)だろう。彼らの要求は「自分たちの利益になるアメリカ法を世界中に適用したい」ということだ。当然このような要求は従来からあった。それが表れた一例がアメリカのプレイメン事件判決だ。国際私法学者の石黒一憲氏(東京大)の本で知った。

4.プレイメン事件とは?

大雑把に言うと以下のような事件だ。
イタリアの会社(タティロ社)がイタリアにあるサーバにアダルト画像をアップロードし、「プレイメン」というサービス名でユーザにダウンロードさせた。アメリカのプレイボーイ社が「プレイボーイ」という米国商標の侵害を理由にアメリカの裁判所にサービスの差止めを求めて提訴した。
なお、「プレイメン」が商標「プレイボーイ」を侵害することは裁判所が以前に確認していた。以前タティロ社からライセンスを受けてアメリカで「プレイメン」という雑誌を発行してプレイボーイ社に訴えられ負けた会社があったため。
アメリカの裁判所は判決でタティロ社に「アメリカからのアクセスがあった場合にはアダルト画像をダウンロードさせてはならない」と命じた。

石黒氏はこの判決を批判している。当然だろう。イタリアの会社のイタリア国内での行動についてアメリカの裁判所が米国商標の侵害を理由に命令しているからだ。


このように「アメリカ法を世界中に適用したい」という要求はいろいろなところで表れている。域外適用の問題として知られている。代表的な法分野は上記プレイメン事件のような知財法や独禁法など。
TRIPSやTPPのような国際的な法の統一も「アメリカ法を世界中に適用したい」という要求としては共通している。

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