「ウィニー」開発者、無罪確定へ:幇助犯成立の基準は高裁と最高裁で同じなのか?

日経新聞より。
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819695E0E2E2E0998DE0E2E3E0E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2

ファイル交換ソフトの「ウィニー」開発者、無罪確定へ
最高裁、検察側の上告棄却

2011/12/20 17:26
 ファイル交換ソフトウィニー」を開発し、ゲームなどの違法コピーを容易にしたとして、著作権法違反ほう助罪に問われた元東大助手、金子勇被告(41)の上告審で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は20日までに、無罪とした二審判決を支持、検察側上告を棄却する決定をした。無罪が確定する。

 第三者による違法コピーを助長しうるソフトを開発したことが、ほう助罪に当たるかどうかが最大の争点だった。

 同小法廷は決定理由で「著作権侵害に使われる一般的可能性があったというだけでは、ほう助に当たらない」と指摘。具体的な侵害行為が見込まれることや、ソフトを入手する人の多くが侵害行為をする蓋然性が高いことを開発者が認識、認容しており、それを使った著作権侵害が実際にあった場合に限って、ほう助罪が成立するとの判断基準を示した。

 そのうえで「被告はウィニー著作権侵害に使われることを認識していたものの、多くの人が悪用する蓋然性が高いと認識していたとまではいえない著作権侵害に利用しないよう警告もしていた」として、無罪の結論を導いた。

 裁判官5人中4人の多数意見。大谷剛彦裁判官(裁判官出身)は「被告は著作権侵害防止策を講じることなくソフト提供を続けた。かなり広い範囲で侵害行為に利用されることへの認識があった」として、反対意見を述べた。
[…]


Winny事件(従犯金子勇氏の事件)が最高裁で上告棄却決定が出たという記事*1。個人的には、結論は無罪でもいいと思うが、当時の2ちゃんの過去ログなどから考えると金子氏が「多くの人が悪用する蓋然性が高いと認識していたとまではいえない」というのは疑わしい。その意味で大谷裁判官の反対意見も理解できる。2ちゃん以外でも例えば、金子氏が姉に送ったメールがある。これは有罪となった地裁判決で引用されたもの。

まあ,何やったらまずいかは良く把握してるんで(おかげで最近は著作権法とかに詳しくなったけど)気は付けてます。作るだけならぜんぜん問題ないんだけど作者が悪用できることを明らかに宣伝するとまずいはず。その辺は抜かりないはず。作者なので自由に手を入れられるのでテストの時は絶対に外にファイルをUPしたりしないようにしてる。


本件の結論は無罪でいいとして、有罪になるか無罪になるかの基準が重要である。
記事によれば、最高裁は幇助犯成立の基準を「著作権侵害に使われる蓋然性が高いと認識しているかどうか」としているようだ。高裁と地裁はどうだったかというと、地裁は「著作権侵害に使われると認識しているかどうか」という基準で有罪とした。高裁は「著作権侵害にのみ又は主要な用途として使うよう勧めているかどうか」という基準で無罪とした。高裁判決から引用する。

価値中立のソフトをインターネット上で提供することが,正犯の実行行為を容易ならしめたといえるためには,ソフトの提供者が不特定多数の者のうちには違法行為をする者が出る可能性・蓋然性があると認識し,認容しているだけでは足りず,それ以上に,ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する場合に幇助犯が成立すると解すべきである。
これを本件においてみると,被告人は,価値中立のソフトである本件Winnyをインターネット上で公開,提供した際,著作権侵害をする者が出る可能性・蓋然性があることを認識し,認容していたことは認められるが,それ以上に,著作権侵害の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めて本件Winnyを提供していたとはこれを認めることができない


地裁の基準は話にならないとして、最高裁と高裁の基準が少し違うようなのが気になる。個人的には高裁の基準の方が優れていると思うためだ。なぜ優れているか。高裁の基準は日本の特許法とも一致した基準であり、アメリカ法の基準とも整合性があると考えるためだ。

高裁の基準は著作権侵害を「唯一の用途(「のみ」)」又は「主要な用途」として「勧める」ことである。一方、日本の特許法には、侵害のみに用いる物を提供したり、侵害に不可欠な物をそれと知りつつ提供することを侵害とみなすと規定されている(特101条)。アメリ特許法にも同様の条文がある。


このような侵害を間接侵害とよぶ。そもそもWinny事件は知財法学的には間接侵害の事件である。直接に侵害するP2Pユーザが直接侵害であり、直接侵害をまねくP2P提供者(金子氏)は間接侵害ということである。これが刑事事件では正犯(直接侵害)と従犯(間接侵害)に対応する。P2Pユーザが逮捕起訴されることが多いが彼らは正犯である。(細かい議論はいろいろあるだろうが)従犯は正犯を前提としているので本件でも正犯(Winnyユーザ)が逮捕起訴され有罪となっている。

この間接侵害はアメリカ法では3種類あるとされる。日本の特許法のような類型は寄与侵害と呼ばれる。またアメリカのP2Pの裁判では誘引侵害と呼ばれる類型も問題になる。例えばグロックスター事件最高裁判決。誘引侵害が成立する条件は直接侵害を積極的に誘引することである。高裁判決の「勧める」という言葉は誘引侵害を意識したものだろう。また高裁は「金子氏が侵害しないように警告していた」ことを考慮しているがこれもアメリカで考慮される「提供者が侵害防止措置を採ったか」と同じだ(最高裁も考慮しているようだが)。そのほかアメリカで考慮されている要素としては「提供者が利用者の行動を管理しているか」「提供者が利益を得ているか」などである。


以上のように高裁の基準はちゃんと考えられた良い基準という印象をもっていた。なので最高裁が高裁と違う考えをしているのかどうなのかは気になるところだ。


上の「唯一の用途(「のみ」)」「主要な用途」「勧める」といった要素は知財法において間接侵害を考える上で基本的で重要な要素だと思う。この視点から問題なんじゃないかと思ってる法律があるので、今後それを取り上げるかもしれない。