岩田規久男『福澤諭吉に学ぶ思考の技術』
2011年の本を紹介するシリーズ10冊目。今回は9冊目『経済学的思考のすすめ』に続き岩田規久男氏の本を。
- 作者: 岩田規久男
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2011/02/25
- メディア: 単行本
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岩田規久男『福澤諭吉に学ぶ思考の技術』(2011)東洋経済新報社 ★★★
『経済学的思考のすすめ』(2011)に続いて岩田規久男氏。『経済学的思考のすすめ』で姉妹本として紹介されていたので読んだ。『経済学的思考のすすめ』は演繹法を紹介したものだったが本書はタイトルどおり福澤諭吉の本(『学問のすすめ』『文明論之概略』)から思考の"技術"を学ぶというもの。
しかし、自分の読んだ限り「技術」といっても演繹法のようなまとまった何かがある訳ではない。ただバラバラと紹介されるだけ。また、その"技術"自体も当たり前で新しいことはほとんどない。このように本書は企画倒れという印象を受ける。自分が考える敗因は福澤諭吉の思想は方法よりも対象(日本の近代化)が重要だからじゃないか。福澤諭吉の方法は単に近代らしい合理主義・経験主義なんじゃないだろうか。
一応、紹介されている福澤諭吉の"技術"の内容をメモしておく。
- (1)【第1章】議論の目的を明確にすべき
- (2)【第2、3章】議論をする者の立つ利害を明確にすべき
- (3)【第2、3章】議論をする者の狭い利害ではなくより一般的な価値に基づき議論すべき
- (4)【第4、5章】臆断、惑溺するな。「臆断」は根拠なく思い込むこと。「惑溺」は事物の中に内在的価値があると根拠なく信じること。「臆断」は「惑溺」の上位概念。
- (5)【第6、7章】欠点主義・限界主義(欠点や限界をあげつらい新しい試みをしない)、前例主義、極端主義(極端な場合を例にとる)は思考停止
(3)の一般的な価値の例として、自由主義・個人主義。自由主義の観点から夫婦別姓反対派を批判している。ジョン・スチュアート・ミル『自由論』が参照されている。
(4)の例として、孔子にとっての君臣関係、天動説。「根拠なく思い込むな」という指摘は意味がない。<根拠があるより根拠がない方がよい>ということがないから。孔子だって天動説だって根拠が何もないわけじゃないだろう。他の例として六曜。こっちは擁護が難しい。
(5)の例として、インフレ目標政策への批判は前例主義であり極端主義だと言っている。出た!ホントにこのしつこさはスゴい。
『経済学的思考のすすめ』で紹介されていた<問題を切り分けそれぞれ適切な政策を割り当てる>という問題解決方法はなかなかよさそうと思ったが、本書でも紹介されている。変形例として<ある政策の副作用がある場合はその副作用に対し別の政策を割り当てる>とも。
【その他】
岩田氏の本の内容が経済学からだんだん離れていっているのが気になる。岩田氏は「ジャーナリスティック」な人なので鈴木亘氏の言うような事態にならないとは思うが・・・。『日本経済「余命3年」』(2010)での鈴木氏の発言。
経済学者のインセンティブが歪んでいる。理論に貢献する研究者(象牙の塔)が尊敬され、竹中氏や池田氏のようなジャーナリスティックな活動をする人を評価しない。一方で年をとり「第一線の研究ができなくなった象牙の塔の大御所が[・・・]突然世の中に迷い出て、専門外の分野について適当なことをいう」(p.136)
大学についての言及が結構おもしろかった。
教授会[では][・・・]たいていの人が議論に集中しておらず[・・・]内職をしている。(p.12)
いまだにマルクス経済学者が多数を占めている大学の経済学部が少なくない(p.101)
霞が関官僚の目的は「仕事量最大化」(p.51)
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