岩田規久男『経済復興』

2011年の本を紹介するシリーズ12冊目。今回も11冊目『デフレと超円高』に続き岩田規久男氏の本を。2011年はやはり大震災関連の本を読むことになったが、これもその1冊。岩田氏の本なので復興のための経済政策について。

経済復興: 大震災から立ち上がる

経済復興: 大震災から立ち上がる

岩田規久男『経済復興』(2011)筑摩書房 ★★★

『デフレと超円高に続いて岩田規久男氏。本書は東日本大震災から復興するための政策について書いたもの。ほとんどが経済政策の話で内容はいつもどおり日銀による国債引き受けインフレ目標。それ以外に都市計画、エネルギー政策についても若干。過去の関東大震災、戦後復興、阪神大震災との比較もしている。
評価は、岩田氏の著書なのでもちろん悪くないのだが、まあ平均的な内容。★3つ。

【経済政策】

主な選択肢として増税と復興債がある。復興債の日銀引き受けをすべき。
増税はダメ。消費と投資を減少させるため。
復興債を民間に売るのではダメ。民間の貨幣量が増加しないため。
民間の貨幣量が増加した後、景気が回復する理由は金融資産が現金・預金から株式へと向かうため。これにより企業と家計のバランスシートが改善され投資と消費が増大する。預金から株式に向かう理由は貨幣量が増え預金金利が下がるため。うーん。これ以上下がるのか。
どれくらい復興債を発行すべきか。毎年訳10兆円で5、6年間、計40〜50兆円。


復興債に対する批判は<国債利率が上昇する>というもの。しかし、この批判は妥当でない。なぜなら政府債務額は増大しても国債利率は安定しているから。予想インフレ率は低いままだから。この答えは答えになっているか疑問。またインフレ目標政策を導入すれば国債金利の上昇を抑えられるとする。これも疑問。人の予想は連鎖するものだから。人びとが国債金利が上がるといったん予想したら相転移が起きて実際に上がるんじゃないか。

●戦後復興

事実として興味深いのは1946〜48年まで日本は大幅な貿易赤字だったがアメリカの対日援助(贈与)により穴埋めできた。アメリカの贈与の対GNP比は5.5%〜13%だった。凄い額だな。知らなかった。アメリカの意図がなんであれ、ありがたいことだ。
傾斜生産方式もアメリカの援助がなければ不可能だった。なぜなら最初に石炭を生産するための重油・原炭がなかったため。それをアメリカから援助してもらった。
1945年〜48年まで石橋湛山蔵相の時代にハイパーインフレ。そして49年にドッジライン。岩田氏はハイパーインフレ下でも日本の実質成長率は高く、石橋財政は成功だったとする。一方、ドッジラインはデフレを招き失敗だった。朝鮮特需がなければ日本は不況を脱出できなかった。

【都市計画】

日本の都市計画は計画と事業決定までにあまり時間をかけず、事業の完成までには長い時間がかかる。本来なら逆であるべきだろう。

関東大震災

後藤新平による東京の都市計画。昭和通り靖国通り、蔵前橋通り、明治通りなどの道路、永代橋、駒形橋、蔵前橋、言問橋などの橋、52の小公園などを整備した。後藤新平は台湾統治など優れた人物という印象がある。
「   」*1のすぐ近くに住んでいる身としては感慨深い。

【エネルギー政策】

電力の供給制限はせずピーク時の料金を値上げすべき。うわっ、いかにも経済学者が言いそうなことだ。
原発の問題は

  • (1)電気料金に事故の費用が内部化されていないこと
  • (2)監視が機能していないこと

「自己の費用」とは事故が起こったときの補償の財源や事故を防止するための対策費。内部化すれば原発は高コスト。高コストな原発より低コストな火力発電を効率化して利用した方がいい。日本はこれ以上の効率化は難しくとも中国など海外に日本の技術を輸出すれば効率化の余地はある。
監視を行うべき原子力委員会のトップは原子力工学の研究者であり、中立でない。

*1:家が特定できてしまうかもしれないので消しました。