堀江貴文、上杉隆『だからテレビに嫌われる』

2011年に出版された本を紹介する24冊目。今回も23冊目堀江貴文『ホリエモンの宇宙論』に続いてホリエモン。これで2011年に出版されたホリエモンの著書9冊がやっと終わった。やってみたら意外と長かった。他の8冊についてはページ末の関連エントリ一覧を参照。たぶん自分が継続的に読んでいる著者で2011年もっとも本を出した一人が堀江氏だろう。対抗できそうなのは内田樹氏と高橋洋一氏か。
私が堀江氏の本のどこに読む価値を見出しているかについては以前のエントリホリエモンの人気の理由は何か?を参照。

だからテレビに嫌われる

だからテレビに嫌われる

堀江貴文上杉隆『だからテレビに嫌われる』(2011)大和書房 ★★★

いつもの堀江貴文氏。今回はフリージャーナリストの上杉隆氏との対談。原発問題を主なテーマにテレビ批判をする内容。上杉氏は先日内田樹ほか『有事対応コミュニケーション力』(2011)で初めて本を読んだばかり。上杉氏はいわゆる原発危険厨、堀江氏は安全厨なので「その辺で対立しておもしろいかな」というくらいの気持ちで読んでみた。まあ、予想どおり大したことは書いていないが、悪くはない。上杉氏の細かな事実の話がおもしろい。そのまま信用はできないけど。★3つ。


『有事対応コミュニケーション力』と同様に「メディアリテラシーって重要だね」という話。
上杉氏は「日本のマスコミ(テレビ)の最大の問題点は言論の多様性がないこと」として「言論の多様性があれば、視聴者は『ああ言っている人もいるしこう言っている人もいる。何が正しいんだろうか』と自分で考えて情報を選び取るメディアリテラシーを身につけことができるようになるはずだ」と主張している。
ごもっとも。150年以上前にジョン・スチュアート・ミル表現の自由の問題として主張してることだけど(『自由論』(1859))。

人は無謬ではないこと、正しい意見のほとんどは真理の一面をつかんでいるにすぎないこと、反対意見を完全に自由に比較した結果でないかぎり、意見の一致は好ましくないこと[…]といった原則(p.127)


上のような問題意識からすると<なぜ日本のマスコミは多様性がないのか?>という問いが重要となる。本書では上杉氏がいちおう答えらしきことを言っている。第一は<マスコミは元マルクス主義者が当時の組織掌握術を使って支配しているから>。第二は<利益集団であるはずの会社が共同体になっているから>。


第一の答えはマスコミ・教師がクソなのは元左翼が流入したから、という右翼な人がよく言う話。例えば、小室直樹氏も指摘している(『日本国民に告ぐ』(1996))。本書では上杉氏が氏家齋一郎氏について書いた記事の引用が註にある。

逆らうものは徹底的につぶす、逆に取り込めるとみれば圧倒的に優遇する。それが、氏家氏が東大新人会時代から学んだ共産主義的権力統治論なのかもしれない。(p.179)

日本のメディアを支配してきたナベツネ(渡邉恒雄)と氏家が元共産党員という事実は、この説に説得力をもたせるだろう。実証はできないけど。


第二の答えについては堀江氏を女子アナとの合コンに誘い盗撮した日テレ記者に関する以下のやりとりが参考になる。

堀江 あいつが会社で生き残っていること自体が不思議だよね(笑)。
上杉 社会的には犯罪行為を犯そうが、組織にとって正しいことをやっていればいいという考え方ですよね。(p.187)

これも、まさに小室氏がしつこく主張している共同体の二重規範性だ。共同体になったカイシャは学生運動組織と同じような手法で掌握できるのだろう。この二重規範性は例えばオリンパス問題を題材にすれば一層ハッキリとする。会社を利益集団ととらえるイギリス人と共同体ととらえる日本人という図式だ。

ダブルスタンダード

上杉 テレビは単なるプライベートカンパニーじゃないんです。法律上も税制上も優遇され、帯域というほとんど無料の電波、公共の利権を独占しているメディア産業なんです。にもかかわらず、自社の利益ばかりを最優先してしまう。(p.206)

基本的だが重要なポイント。「ダブルスタンダードは正義に反する」と非難されてちゃんと反論できる人はいないのではないか。

【その他】

上杉 テレビは自主規制している。
日本のマスコミは戦前は軍に対して自主規制し、戦後はGHQに対して自主規制してきた歴史がある。これも小室直樹氏の『日本国民に告ぐ』で紹介されている。


上杉 マスコミも官僚と同じく無謬主義。スクープをとっても出世しないが特オチをやると出世できない。海外は逆で特オチをやってもスクープをとれば挽回できる。


上杉 自分の番組で鎌仲ひとみ監督の映画『ミツバチの羽音と地球の回転』を紹介したら、電力会社がスポンサーを降りた。鎌仲氏は飯田哲也氏との共著を読んだことがある(『今こそ、エネルギーシフト』(2011))。


上杉氏がテレビ批判をしまくるのに対し、堀江氏が「今さら言わなくても元々ダメだったじゃん」と答えている。『有事対応コミュニケーション力』における内田樹氏と同じ反応。ここでも上杉氏は空回っていていい。


予想どおり原発危険か安全かで言い争っていて微笑ましい。二人で意見の多様性を実践している。

堀江 原子炉建屋の中とかだったらまずいかもしれないけど。
上杉 中なんて、ありえない。死んじゃいます。
堀江 いや、死にはしないと思いますけど。
上杉 死ぬ死ぬ。(p.127)


堀江 みんなでスッポンを食べに行って「コラーゲンで、明日はお肌つるつる」とか言ってる人に「コラーゲンなんてアミノ酸に分解されて吸収されるんだから意味ないじゃん。ただ脂肪で脂ぎってるだけでしょ」と言うとドン引きされる。
笑える。分かってても言いたくなるよね、という話。


上杉 孫正義ルパート・マードック組がテレ朝を買おうとしたから放送法の20%外資規制が改正された。
これを聞いて堀江氏は同じ話を語ってたのか(ホリエモンとりあえず最後の言葉』(2011))。

堀江 今の日テレって、40歳くらいから給料が上がらなくなっちゃってますからね。(p.222)

上杉氏が「どこも同じ」と答えているが、自分も将来はこうなると思う。今まで大企業は40代で急上昇する賃金カーブだったが、これが中小と同じ急上昇のない賃金カーブになると思う。団塊世代の逃げ切りの一例。

【関連エントリ】

有事対応コミュニケーション力 (生きる技術!叢書)

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自由論 (光文社古典新訳文庫)

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日本国民に告ぐ―誇りなき国家は、滅亡する

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今こそ、エネルギーシフト――原発と自然エネルギーと私達の暮らし (岩波ブックレット)

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