堀江貴文『ホリエモンの宇宙論』
2011年に出版された本を紹介する23冊目。今回も22冊目堀江貴文『ホリエモンとりあえず最後の言葉』に続いてホリエモン。堀江氏の著書は何十冊あるか知らないが、そのほとんどを読んでいる私としては「最高傑作はどれか?」と訊かれれば、まず本書を挙げるだろう。本書は宇宙ビジネスについての入門書としてよく出来ていると思う。もっとも私も宇宙ビジネスについての本を読んだのはこれが初めてなので思い込みの評価だが。
私が堀江氏の本を読む理由である氏の価値観は本書には直接は表現されていない。だが宇宙ビジネスという事業自体がコンサマトリーな価値観を表しているとも言える。またビジネスなのでもちろん合理的だ。堀江氏の合理主義を武器にコンサマトリーな目的に向かって進んでいく様子がよく表現されている。堀江氏の本をもし1冊読むなら本書がおすすめ。
- 作者: 堀江貴文
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/04/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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堀江貴文『ホリエモンの宇宙論』(2011)講談社 ★★★★
今回は堀江氏の現在の事業である宇宙ビジネスについて書いたもの。『堀江貴文のカンタン!儲かる会社のつくり方』(2004)以来の経営に関する本と言えそう。ただ前著は自分のライブドア経営の経験談。一方、本書は宇宙ビジネスのベンチャー論という感じでだいぶ雰囲気は違う。本書の内容はかなりよい。堀江氏の本では『夢をかなえる「打ち出の小槌」』(2009)以来の★4つ。堀江氏の今までの著書の中でベストだろう。もちろん2011年の堀江氏の本としてもベスト。
本書での堀江氏の主張はおおよそ次の通り。
アポロ計画までは冷戦の一部だった。スペースシャトル以降は公共事業。よって競争がなくなり効率が下がり宇宙開発全体の進展が遅くなった。宇宙開発に競争を取り込みビジネスにすれば、効率が上がり、再び宇宙開発が活発化するはずだ。そこで氏は宇宙開発に多くの事業者が参入するような状況を作ることを目的にしている。そのためまずは自身がミニ衛星を打ち上げる小型低コストロケットを事業化しようと考えている。ミニ衛星とは重量キロレベルの小型衛星。
【第1章 アメリカ宇宙産業】
アポロ計画はバブルだった。堀江氏によれば、宇宙産業はその初期にバブルを経験したため後々まで悪影響が及んだ。その意味するところは公共事業になってしまったということだろう。
スペースシャトルはアポロ計画までで大きくなってしまった宇宙産業を食わせるためのもの。スペースシャトルは地上と地球低軌道間の低コスト輸送手段の実現を目的とした。しかし、スペースシャトルは公共事業であるから「効率の悪い設計の方が政府から多額の予算を引っ張ってこれる」と考えられ低コストとは程遠いものになった。
アポロ計画以降、宇宙開発は停滞している。スプートニク1号が1957年、アポロ11号が1969年。ここまで12年間。それに対しスペースシャトルは初飛行が12年後の1981年で国際宇宙ステーション(ISS)は更に30年後の2011年完成予定。
現在、アメリカ政府は公共事業から脱却し宇宙ビジネスを促進しようとしている。ブッシュ政権の宇宙政策はスペースシャトルとISSから撤退し、有人宇宙飛行を行うというもの。オバマ政権の宇宙政策はスペースシャトルからは撤退するがISSを活用し民間にISSへの輸送を担わせる。その輸送需要で宇宙ビジネスを促進させる。政府は月も含め有人探査を行う。ISSへの輸送についてボーイング、ブルーオリジン社などに補助金を出している。
【第2章 宇宙ビジネス】
宇宙ビジネスの現状と将来について解説している。この部分は特におもしろかった。
(1)衛星の打ち上げ
現状はヨーロッパのアリアンスペース社が5割以上のシェア。
(2)衛星の製造販売、通信衛星・放送衛星の運営
通信衛星の運営は政府の独占→インテルサット(1964)の独占→レーガン政権による自由化(80年代)と変遷。インテルサットについては石黒憲一氏(東京大)の本によく登場する(例えば『電子社会の法と経済』(2003))。
放送衛星はNASAが打ち上げたのが最初(1974)。自由化後はルクセンブルグの衛星による衛星放送(1989)がヨーロッパ中で放送を開始し大きな影響を与えた。名和小太郎『技術標準対知的所有権』(1990)で著作権の事件として紹介されている。
(3)地球観測衛星・気象衛星
例えば、Google Map、「ひまわり」、ウェザーニューズ。ウェザーニューズの衛星はミニ衛星(重量10キロ)。例えば月探査機「かぐや」は重量2.7トン。
(4)測位衛星
例えば、GPS。GPSはアメリカ国防省が運営しているシステム。恥ずかしながら知らなかった。
アメリカの影響下から脱するため中国・ロシアは独自システムを開発中。日本も開発中。その一環として「みちびき」を打ち上げた。
(5)宇宙実験
スペースシャトルでは宇宙実験でイノベーションが可能と喧伝されたが実際の実験環境は劣悪。多くの理由が挙げられている。シャトルの打ち上げが少ないため繰り返し実験が不可、シャトルの打ち上げ時期が遅いと研究計画が立てられない、飛行士の作業時間が短い、実験スペース・機材の制約(例えば燃焼実験不可)。国際宇宙ステーションの稼動により実験環境は改善された。
(6)宇宙旅行
健康であれば一般人でも簡単に宇宙に行ける。日本人発の宇宙飛行士(1990)は特に訓練も受けていないTBS記者秋山氏。その後の宇宙飛行士の選抜・訓練が厳しいのは「宇宙開発は偉大な国家の事業である」という広報のため。実際は公共事業だということだが。
秋山氏は企画から打ち上げまで1年半、毛利衛氏は選抜が1985年、打ち上げが1992年。
現状はロシアの宇宙船ソユーズの独占市場になっている。秋山氏もソユーズに乗った。ロケット打ち上げを事業化しようとしている企業として、ペイパル創業者イーロン・マスクのスペースX社。アポロ計画の際に開発されその後見放された技術を買い取って有効利用している。このような発想は公共事業からは出てこない発想。ほかにジェフ・ベゾスのブルーオリジン社。
宇宙旅行には地球低軌道に入らないが宇宙空間とされる高度100キロ以上に到達する簡易的な宇宙旅行を含む。この市場には多くの企業が参入。ポール・アレンの出資するスケールド・コンポジット社、Googleの出資するXプライズ財団、リチャード・ブランソンのヴァージャン・ギャラクティック。
【第3章 政府の役割】
政府の役割は
【第4章 ミニ衛星】
堀江氏の計画は現状はミニ衛星は大型衛星にくっつけて打ち上げ、宇宙で分離している。それだと打ち上げコストおよび時期などのデメリットがあるので、堀江氏は単独で打ち上げるロケットを事業化しようとしている。
ミニ衛星を使ったビジネスのアイデアを挙げている。例えば、大気圏に突入させ燃やす人工流星。
【第5章】
前半が堀江氏のこれまでのロケット開発の経緯。後半が地球外生命体や地球類似の太陽系外惑星など将来的な話。「将来的に宇宙船の燃料は核燃料になる」と主張しており「これが原発擁護発言の背景か」と思った。スタニスワフ・レム『ソラリスの海』が出てくる。
【その他】
スプートニク・ショックはアメリカ上空を飛ぶ人工衛星から核爆弾を落とせるという事実が当時のアメリカ人にとって衝撃的だった。しかし実際はこの考え方はおかしい。地球低軌道から地上に爆弾を落とすには大きなエネルギーが必要だから。なるほど。
軍用技術と民生技術の違いは結局、技術の利用目的しかない。
賛成。ウィニー事件を連想する。「包丁は殺人に使えるからといって規制すべきか?」という問題。この問題に対しては目的論的に考えるしかない気がする。
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