松岡正剛『リスクな言葉』

2011年に出版された本を紹介する27冊目。松岡正剛氏については本ブログでは『多読術』を引用してきた(以前のエントリ:本を速く読むにはどうしたらいいか?)。私が松岡氏を読み始めたキッカケは氏のブログ「千夜千冊」だろう。人名とか書名で検索すると、このブログがよくヒットしていたので結構読んでいた。著書を読んでみると<編集>という概念をキーにしていたりして共感できた。あとは氏が自分の好きな"雑学系"ということだ。例えば、量子力学老子をつなぐような<編集>は他にあまりないし(この組み合わせはもともと湯川秀樹氏によるものだが)、"雑学系"に必ずつきまとう底の浅さはあるものの読む価値があると思う。

松岡正剛『リスクな言葉』(2011)求龍堂 ★★★

いつもの松岡正剛氏。『危ない言葉』、『切ない言葉』に続く"セイゴウ語録"の第3弾。本書は世界金融危機東日本大震災の影響で、松岡氏がよく論じていたリスクについての言葉をまとめたもの。ほとんどが最近の『千夜千冊』が出典。普通にリスク論を書き下ろしとして書くべきで、狭い時期のブログから短い言葉を拾ってきてまとめて本にするというのは手抜きという印象を受ける。書いてある内容は賛成できそうなものも多いが、言葉足らずで真意が分からないものも多い。抜き出されている言葉が短すぎるので。


本書の基本的な主張は<リスクをどう計測するかという問題がないがしろにされている>ということ。例えば、タバコのリスクは肺がんで計測され、ラグビーのリスクは骨折で計測されているが、そんな単純なモノサシでいいのか?という疑問。


以下、簡単に内容のメモ。


松岡氏の金融危機のリスク論はいつもの市場主義批判にもつながっている。

企業が重視すべき「価値」や「意味」の維持や創出に耐えられなくなって、ひたすら成長や成績の数字をあげることに奔走しすぎた。(p.88)

言ってることはまったくもって同感。ただ、ありがちな市場主義批判で名言ってことは全然ないよね。

そのように思っているコミュニティのすべてが、実のところは「IDアドレス」や「賞味期限」や「監視カメラ」によってしか支えられなくなっていることに気がつくべきである。(p.155)

IDアドレス?IPの間違いじゃないの?

文化というものは、リアルタイムの価格では作れません。文化は大きな時間のズレを包含して育っていくものです。(p.195)

同意。時間というところがポイントで新古典派経済学一般均衡理論の時間のなさとの対比だろう。内田樹氏なども同じことを言っている。しかし、上のように言葉が短すぎるので意味を推測するしかない。本当に自分の推測があっているかは前後の文脈を見ないとよく分からない。

【参照文献】

マックス・ウェーバープロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神
アマルティア・セン『合理的な愚か者』
ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』