中国作家、アップルに6億円超請求 著作権侵害訴え:iTunes Storeの抱える間接侵害のリスク

日経新聞より
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C9381959FE3EAE2E2858DE3EAE2E1E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2

中国作家、アップルに6億円超請求 著作権侵害訴え
2012/3/18 21:05

 中国の作家団体が、米アップルのiPhone(アイフォーン)など携帯端末向けソフト配信サイト「アップストア」で著作を無断販売されたとして、同社に損害賠償を求めた訴訟の請求額が計5千万元(約6億6千万円)に達した。新華社が18日伝えた。

 昨年からの数度の提訴で、請求額が膨らんだという。同団体は人気若手作家の韓寒氏ら22人の小説など計95作品の海賊版がアップストアで販売され、著作権が侵害されたと主張している。

 中国での海賊版や偽ブランド品の横行を非難してきた米国の有名企業が、知的財産権をめぐり逆に提訴された。アップルは「知財権保護の重要性は理解している」とし提訴には「適切に対応する」とコメントしたという。

 中国ではアップルの多機能端末iPad(アイパッド)の商標権をめぐる訴訟も続いている。(北京=共同)

これは著作権法間接侵害の事件と思われる。直接侵害しているのは海賊版電子書籍アプリの作者だからだ。アップルはそのような作者に"場を提供"した者として間接侵害に問われていると思われる。


間接侵害については以前ウィニー事件に関連して触れたが(「ウィニー」開発者、無罪確定へ:幇助犯成立の基準は高裁と最高裁で同じなのか?)、今回もこの問題を取りあげたい。間接侵害は著作権法において重要な問題だからだ。
なお、なぜウィニー事件と本件が同じ間接侵害の問題になるかといえば、winnyもアップルも著作権侵害の"場を提供"しているからだ。


私が「本件に似てるな」と思った判決としてアメリカのチェリー・オークション事件(1966)というのがある*1この事件はチェリー・オークション社が主催したレコードのフリーマーケット海賊版レコードが多数販売されており、そのレコードの著作権者がチェリー社を著作権侵害で訴えた事件。
この事件の判決に照らしてみるとiTunes Storeには著作権(や商標権)の間接侵害で責任を追及されるリスクのリスクがあると思われる。以下、文科省文化審議会のサイトからチェリー・オークション事件の解説を引用する。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/06073103/003/005.htm (文科省)

1.事案の概要

原告は,録音物に対して著作権者である。被告[チェリー・オークション]は,フリーマーケット(flea market)の運営会社とその管理人たちである。被告のフリーマーケットへの出店者が違法複製レコードを販売していた。警察当局(保安官sheriff)の捜索によって38,000枚の違法複製レコードが押収されたこともあり,その後も警察当局からなおも違法複製レコードの販売が続いているので協力するよう求められてもいた。なお,被告は,出店者からは定額の出店料を得ていたほか,入場者から入場料を取っていた。
 原告は,カリフォルニア東部地区連邦地方裁判所(地裁)に被告を著作権侵害および商標権侵害で訴えたが,地裁は原告の主張自体が失当であるとして請求を却下した。控訴を受けた第9巡回区連邦控訴裁判所(控裁)は,著作権侵害に対する代位侵害および寄与侵害ならびに商標権侵害に対する寄与侵害を認め,地裁判決を破棄し差し戻した。

控訴審は代位侵害と寄与侵害を両方認めている。代位侵害と寄与侵害はどちらも間接侵害の類型。なぜ複数あるかというと本判決の示すように成立要件が違うため。

2.代位侵害についての裁判所の判示

「地裁の見解によれば,監督と経済的利得の両方の要件に関して,被告は,貸与物件に対する占有権を借地人に渡した不在地主と同じ地位にある。この不在地主のアナロジーは,地裁で主張された事実(当裁判所は控訴においてこれを前提にしなければならない)にそぐわない。主張によれば,出店者は施設内に小さなブースを占有していたが,被告はその施設内を監督し巡回していた。訴状によれば,被告は,理由の如何を問わず販売を停止する権限を有しており,また,その権限によって施設内の出店者の行為を監督する能力を持っていた。また,被告は当該フリーマーケットを宣伝し,顧客の来場を監督していた。監督の点からいえば,本件における主張は,シャピロ事件やガーシュウィン事件のそれと顕著な類似性を有している。……したがって,原告が十分な監督の事実を主張しなかったとの根拠に基づいて,地裁が本件における代位責任の請求を却下したのは正当ではない。
 つぎに,当裁判所は,経済的利得の争点を検討する。……しかし,原告が主張した事実は,被告が入場料,売店売り上げおよび駐車場料金から実質的な経済的利得を得ており,そのすべては,特売場価格で偽造レコードを買いに来る顧客から直接流れ込むものである。原告は,十分に直接的な経済的利得を主張している。
 ダンス・ホールの事案に始まる一連の裁判例は,著作権を侵害する実演が潜在的顧客を引きつける手段を強化するものである場合に事業運営者に代位責任を課すものであるが,当裁判所の結論はこれによって補強される。……本件においては,被告のフリーマーケット海賊版レコードが販売されることは,ダンスホール事件とそれに続く事件における違法音楽の演奏と同じように客「寄せ」である。原告は著作権の代位侵害の請求事実を主張している。」

代位侵害については考慮要素として「監督と利益性」を挙げている。これは日本のカラオケ法理に通じる。

3.寄与侵害についての裁判所の判示

「寄与侵害は,不法行為法に起源を有し,他人の侵害行為に直接寄与したものは責任を負うべきであるとの観念に由来する。……
 原告が本件における認識の要件を適正に主張したことに疑問の余地はない。議論のある争点は,被告が侵害行為に重要な寄与を行ったことを原告が適正に主張したか否かである。当裁判所は,本件における主張が侵害行為に対する重要な寄与を示すに十分であると認定するのに,ほとんど困難がない。実際,万一当該フリーマーケットが当該サポート・サービスを提供していなければ,当該侵害行為が大量に生じることは困難であったと思われる。これらのサービスは,とりわけ,場所,電気電話等,駐車場,宣伝広告,トイレおよび顧客の提供を含む。……
 明らかに,地裁は,侵害に対する寄与は被告が『偽造製品の販売を明確に促進もしくは奨励しまたは何らかの方法で侵害者の身元を隠した』場合のような状況に限られるべきであるとの見解を取った。…地元の保安官が適法に被告にその出店者についての基本的身元情報を収集提供するよう求めたが被告がこれに従わなかったとの主張があるので,被告は,地裁自身の立てた基準の最後の部分(侵害者の身元を隠す場合に責任を認める)にぴったりと当てはまるように見える。さらに,当裁判所は,侵害行為を知って場所や施設(site and facilities)を提供することは寄与侵害責任の成立に十分であるという,Columbia Pictures Industries, Inc. v. Aveco, Inc., 800 F.2d 59(3rd Cir. 1986)事件における第3巡回区の分析に賛成である。」

代位侵害については考慮要素として「場所や施設の提供」を挙げている。「サポート・サービスの提供」という言葉もネットビジネスに馴染む。


このような判示事項を見るとチェリーオークション社とアップルにどれだけの違いがあるか疑問になってくる。App Storeで売っているデジタルデータに関してアップルは「監督と利益性」も「場所や施設の提供」も具備するように思える。よってアップルはこれらのデジタルデータに関して著作権の代位侵害・寄与侵害のリスクを抱えているといえる。

*1:Fonovisa, Inc. v. Cherry Auction, Inc., 76 F.3d 259 (9th Cir. 1966)