内田樹・中沢新一・平川克美『大津波と原発』

中沢新一氏が「緑の党」を立ち上げるというニュース(本エントリ末の記事)。
中沢氏の著書は読んだことがないが、内田樹氏との対談を以前に読んだ。そこで「緑の党」の話をしていた。その対談を読む限り、中沢氏の発言は下らないものばかりであった。こんな馬鹿げたことを言っている人が政治なんて「勘弁してくれ」という感じ。ということで今回はその本の読書メモを。
なお、中沢氏のいう政権獲得を目指さない政党というのはほとんど語義矛盾だ。なぜなら政治学では一般に政党の定義に政権獲得を目指すという要素を入れるため。「緑の党」なんて紛らわしい名前を使うべきではないだろう。

内田樹中沢新一平川克美『大津波原発』(2011)朝日新聞出版 ★★

いつもの内田樹氏。最近身体論ものを読んでいたが今回は東日本大震災について。新刊が出ていたので読んでみた。本書は地震直後の4月5日に平川氏の「ラジオデイズ」で配信された番組の単行本化。平川氏は『9条どうでしょう』以来。中沢新一氏は宗教学者。東大駒場事件や地下鉄サリン事件前に浅原彰晃やオウムを擁護していたのも有名。宮台真司氏に叩かれていた。


本書の評価だがまず内容が薄い。こんな程度のもの出版する必要があるのか謎。
次に養老孟司ほか『復興の精神』(2011)と似たような印象をもった。つまり(もちろん全員ではないが)「文学者はダメだなぁ」というもの。現実から遊離している。具体的には中沢新一氏。『復興の精神』の山内昌之氏に似た印象をもった。以下バカバカしい中沢氏の発言。


原子力はそれまでのエネルギーと違い生態系を経由していない。石油・石炭は生物がエネルギーを変換したものだが原子力は違うという意味。中沢氏はこの本質から考えないから事故が起こったんだみたいなことを言っている。しかし根拠は何も出てこない。
この原子力の本質から考える新エネルギー思想「エネルゴロジー」を広めたいらしい(笑)。そのために緑の党を真似た政党も作るとか。


さらに「原子力は生態系の外にあるから神だ」と言い始め、「キリスト教圏(フランス)の原発は神殿に似ている」と言い出す。原発一神教の国で畏れ多い神のように扱って初めて事故を防げる、と言いたいようだ。そのくせ「多神教(ヒンドゥー教)のインドでも原発は神殿に似ている」とか言ってるし支離滅裂。根拠がバカバカしい。「インドは印欧語族だからヨーロッパと同じだ」だって。


他にも「政治経済の中心が西日本に移る」とか根拠なしの言いっ放し発言。知らないなら言わなきゃいいのに。


結局、3人いても内容は内田氏の話芸だけ。以下の発言は本書の中で唯一気に入った。

内田 […]そのテクノロジーを管理する人間の資質と管理体制。日本のエスタブリッシュメントには申し訳ないけれど、原発のような危険なテクノロジーを扱うような知的な訓練を受けていないから、っていうのがぼくの原発反対論の根拠なの。

自分も制度・システム自体への評価より制度・システムを管理する人間が信用できない。これは死刑制度とそれを管理する検察・法務官僚の関係でもある。


東京新聞より。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2011100302000016.html

人類学者で明治大学野生の科学研究所長の中沢新一氏(61)らが「緑の党」(仮称)を十一月にも立ち上げることが分かった。[…]
 「緑の党」には有識者のほか、里山保全地域通貨の創設などに取り組む市民団体メンバーらが参加。正式な名称や具体的な活動内容は今後詰めるが、最初は正式な政党の形態はとらず、創刊予定の雑誌や、インターネットなどを使って全国のネットワークづくりを進める予定。
[…]
 当面は国政選挙には直接かかわらず、中沢氏も「立候補するというと従来の既成概念が先行してしまう」と自身の出馬に否定的だが、将来候補者を支援、擁立することも「有力な選択肢」としている原発のある自治体と連携、住民投票を行う運動にも取り組む。
[…]

大津波と原発

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復興の精神 (新潮新書 422)

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