ジョン・ケネス・ガルブレイス『ガルブレイスわが人生を語る』
ケインズとガルブレイス、ケインズとシュンペーターについて書いたが(これとこれ)、シュンペーターとガルブレイスの関係はどうなのかというとハーバード大での同僚ということになる。シュンペーターは大教授、ガルブレイスは講師という差はあるが。表記の自伝はその頃のシュンペーターに言及している。そこで今回はその読書メモを。
- 作者: J.K.ガルブレイス,John Kenneth Galbraith
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2004/12/01
- メディア: 単行本
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ジョン・ケネス・ガルブレイス『ガルブレイスわが人生を語る』(2004)日本経済新聞社 ★★★★
根井雅弘『ガルブレイス』という評伝を読んだので自叙伝も。本書は日経新聞「私の履歴書」の連載をまとめたもの。「私の履歴書」を本にしたものとしてはピーター・ドラッカー『知の巨人ドラッカー自伝』や青木昌彦『私の履歴書 人生越境ゲーム』を思い出す。どちらもいい本。特にドラッカーの方は『ドラッカーわが軌跡』という自伝が別にあり、これが自分の中では最高。福澤諭吉『福翁自伝』と並ぶほど。
2003年の語り下ろしのようなのでガルブレイスは当時95歳だ。すごい。身長2メートル超というのもすごい。インタビュー時の奥さんとの写真が載っていていい感じ(p.165)。ガルブレイスは2006年に亡くなっている。
全体の印象としては、第一にモデル(分析)ではなくビジョン(直感)の人という根井氏の指摘どおりの側面。ビジョンに基づき主流派経済学の問題点を指摘してきた異端の経済学者。第二にケインズと同様に、様々な職業を経験していること。数度の官僚(価格統制官、戦略爆撃調査官、国務省)、雑誌編集者(『フォーチュン』)、外交官(インド大使)、政治家(ルーズベルト、ジョンソン、ケネディなど民主党)のアドバイザー・スピーチライター、小説家。
以下、簡単にメモ。
●先祖
ガルブレイスの先祖は18世紀末から19世紀はじめにかけてスコットランド北部のハイランド(高地地方)から追い出されるようにアメリカにわたってきたうちの一人。
●シュンペーター
ハーバードの講師時代に仲良くなったという。当時シュンペーターは50歳代。
浅黒い肌をしており、表情が豊か。そして飛び切りの会話好きだった。(p.28)
ウィーンの雰囲気を周囲に持ちたがっていた。(p.29)
「独占でもいい。それでイノベーションが生まれるのなら」などと、刺激的な発言をしては周囲から反発をうけることもあった。(p.30)
最後の発言は後々までガルブレイスに影響を与えている。世紀末ウィーンの雰囲気をハーバードに持ち込もうとしていたシュンペーターは興味深い。世紀末ウィーンはドラッカーの自伝の舞台でもある。自分の好きなカール・ポパーの自伝の舞台でもある(『果てしなき探求(上)(下)』)。
●ハイエク
ケンブリッジ留学時代にLSEに週一回行ってセミナーを受けていた。その中にはハイエクのセミナーもあった。
百人近くの出席者のほとんどは「反ハイエク」派で、しゃべりたがりが多かった。そのため、教授の声がほとんど聞こえないことも多かった。(pp.41-42)
当時LSE講師だったニコラス・カルドアなどが噛み付いていたそうだ。ハイエクはひたすらケインズ時代を耐え忍んでいたんだろうなぁと感慨深い。
このハイエクも世紀末ウィーンの生まれだ。自伝は読んだことがないが。そしてウィーンのドラッカー家のホームパーティにも来たという。このパーティにはシュンペーターやミーゼスも来ていたという。ドラッカーの父がオーストリア=ハンガリー帝国の閣僚だったので(シュンペーターも財務大臣を務めた)。
●拮抗力
拮抗力のアイデアはケンブリッジの冬休みに訪れたスウェーデンでの経験から生まれた。
当時スウェーデンは生協活動が活発で、集団的にモノを購入することで独占企業に対抗していた。この方法は私の心に深く刻まれ、後々まで残ることになる。(p.44)
拮抗力の概念は『アメリカの資本主義』(1952)で提唱された。ただ今では「私の考えの中で重要な位置を占めていない」(p.100)とも。
また当時からスウェーデンは景気後退時の財政赤字は容認され、それを放置することが景気刺激策になると考えられていた。ケインズ『一般理論』(1936)を先取りしていたという。
●「失われた10年」の原因は何か?
日本経済は一九九〇年代初めから長期間にわたり停滞を続けたが、この原因については私なりの見方がある。それは、日本人の生活の基本的な欲求がすでに十分満たされている、ということである。日本人は自動車、電気製品をはじめとして消費財をすでに保有しており、もう新たに買う必要はない。一方、こうした製品に代わって、人々の興味や関心を引くものは十分に供給されていないのだ。
衣食住の基本的な欲求が満たされれば、人びと[ママ]の関心はモノではなく、楽しみや知識に向かっていく。芸術、科学、教育などである。[・・・] 日本はこれまで、製品の生産に関心が行き過ぎたきらいがあるのではないか。
米国の力の源はモノの生産にあるのではない。大学など高等教育を重視してきたことや、芸術、スポーツなどが栄えてきたことに[・・・]強み[が]ある。(p.156)
これは自分の考え方と同じだ(「失われた20年」の原因について書いた以前のエントリ)。
●日本人へのアドバイス
日本はこれまでほかの国のまねをしようとしすぎた。これが日本の弱みである。多くの人が欧米を見てどうすべきか考え、自発性や自分自身の決断を軽視しすぎた。(p.157)
あまり経済パフォーマンスを考えすぎないことだ。日本には、人生の喜び、楽しみといった経済以外の側面をもっと重視する国になっていってほしいと思う。(p.158)
これも同意。森嶋通夫氏(LSE)も同じことを言っている(例えば『イギリスと日本』(1977))。
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