小島寛之監修、細川敏之作、石田おさむ画『マンガ ケインズ』
今回からしばらく2011年に出版された本の読書メモを載せていこうと思う。既に載せたものとして内田樹・中沢新一・平川克美『大津波と原発』と山田奨治『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』がある。まず最初の一冊は最近エントリを書いていたケインズに関するこの本を。
- 作者: 石田おさむ,細山敏之,小島寛之
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/04/26
- メディア: 単行本
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小島寛之監修、細川敏之作、石田おさむ画『マンガ ケインズ』(2011)講談社 ★★★★
『容疑者ケインズ』(2008)と小島氏監修の『人生の確率』(2007)がどちらも酷かったので、小島氏監修のケインズのマンガか・・・ということで嫌な予感がしていたが、本書はいい意味で期待を裏切った。
本書はケインズの伝記マンガだが、ケインズの経済理論よりもケインズの現実社会での行動的な人生を中心に描いている。具体的にはケンブリッジでの経済学者・会計官としての仕事のほかにインド省・大蔵省・ジャーナリスト・出版社経営・投資会社経営・保険会社経営・劇場のプロデューサーなど様々な仕事をときには同時並行的にこなしていた様子が分かる。ここからケインズの経済理論もその時々の実際の仕事上の問題(イギリスの問題)に対処するため生まれたと納得できる。例えば、『貨幣改革論』(1923)は金本位制復帰をはかる保守党を選挙で負けさせるため選挙の一月前に書かれた。
経済理論は主ではないとしても『一般理論』だけでなく『貨幣改革論』や『平和の経済的帰結』(1919)など一通りの著作に触れている点もよい。またG・E・ムーア、ザ・ソサイエティ、ブルームズベリー・グループなどの思想的な背景についても言及している。マーシャルの経済的騎士道も出てきて、ケインズがその精神をもって現実の問題に立ち向かったという話になっている。
ということで意外によかった。読む価値あり。以下内容からメモ。
●間違いと思われる箇所
冒頭にケインズがアメリカを訪れ、ルーズベルト大統領と会談し、ルーズベルトが「あなたの理論にしたがって政策を実行します」と語る場面が出てくる。これはウソ。マイケル・サンデル『民主政の不満』などに出てくるが当時(1934年)ルーズベルトは財政均衡論者だった。
ケインズの想いを実現して平和な世界をつくりだすことに両機構は大いに役立っている。(p.179)
●ホワイトヘッド、ラッセル
インド省からケンブリッジに戻るため出したフェロー審査論文「確率論研究」(1907)の審査員がアルフレッド・ノース・ホワイトヘッド。不合格となった。インド省を退職後再び提出した(1908)。その際にバートランド・ラッセルに会って修正の仕方を相談した。今回は合格した。
●エピローグ
巻末のエピローグは世界金融危機後の話。グリーン・ニューディールなど。
ケインズへの再評価は経済学者によって異なる。しかし、各国が採った政策がケインズの理論に基づいていることを否定する人はいないであろう。(p.193)
【解説】
小島氏による。
『一般理論』[・・・]にはたくさんのアイデアが詰め込まれていた。この書物は、ケインズの積年の研究の集大成であり、また、ケインズサーカスと呼ばれる共同研究者たちとの成果であったから、首尾一貫した一つの理論を提示するというのではなく、思いつく限りのアプローチを網羅した総覧的な論文だった。(p.210)
いい指摘。
【参照文献】
ロイ・ハロッド『ケインズ伝』
伊東光晴『ケインズ』『現代に生きるケインズ』
吉川洋『ケインズ』『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』(読書メモ)
宇沢弘文『ケインズ「一般理論」を読む』
小野善康『不況の経済学』
伊藤邦武『ケインズの哲学』
ジョージ・アカロフ、ロバート・シラー『アニマルスピリット』
ジョン・ケネス・ガルブレイス『大暴落1929』
ポール・クルーグマン『世界大不況からの脱出』
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