根井雅弘『20世紀をつくった経済学』

2011年の本を紹介するシリーズ7冊目。6冊目として紹介したケインズ学会編『危機の中でから学ぶ』では経済思想史・経済学史の不毛さを感じたが、私が著書を定期的に読んでいる唯一の経済思想史家が本ブログでも何度か登場している根井雅弘氏(京都大)だ。
日本の代表的ケインズ経済学者の伊東光晴氏(京大名誉教授)門下。根井氏の著書は文章が構造的で明確で読みやすい。また氏の著書は<経済学は現在主流の新古典派だけじゃない、多様性のある社会思想だ>という基本的なメッセージで貫かれている。よってそれほど的外れな本が無いという点も自分が氏の読者である理由だと思う。

20世紀をつくった経済学―シュンペーター、ハイエク、ケインズ (ちくまプリマー新書)

20世紀をつくった経済学―シュンペーター、ハイエク、ケインズ (ちくまプリマー新書)

根井雅弘『20世紀をつくった経済学』(2011)筑摩書房 ★★★

いつもの根井雅弘氏。本書はいつものように経済学者の評伝。同じちくまプリマー新書『経済学はこう考える』(2009)の続編のようなもの。今回取り上げるのはシュンペーター(第1章)、ハイエク(第2章)、ケインズ(第3章)。今回は3人に絞っているので『経済学はこう考える』よりは深い説明になっているが、相変わらず子ども向けのちくまプリマー新書の趣旨には合っていない。しかも、シュンペーターケインズは散々他の本で繰り返し書いているので新しい話があまりない。自分にとっては得るものの少ない本だった。一方、前提知識ゼロで本書を読んでもよく分からないだろう。ただ、短く読みやすい点は『経済学はこう考える』同様評価できる。


以下内容のメモ。

【第1章 シュンペーター

ベルグソンニーチェなど哲学との関係に重点を置いてシュンペーターを解説している。よって全然入門っぽくない。
今までの本と違うことを書こうという意図が感じられるが、伊東光晴氏と森嶋通夫氏がすでに書いてるんだよな。

【第2章 ハイエク

『経済学はこう考える』で章を立てておきながらほとんど紹介されていなかったハイエク。本書では結構解説されている。例えば次の解説はうまい。

社会主義計算論争

計画経済に必要なのは科学的知識などではなく「組織されえない膨大な知識、すなわち時と場所のそれぞれ特殊的な情況についての知識」(p.53)であって、このような知識は「分散した形でしか存在せず、『中央計画当局』が収集する『統計』のなかに入りにくいことこそが、問題の本質」(p.54)である。

ハイエクのいう「隷属への道」とは計画化のこと。

【第3章 ケインズ

補論のように巻末で『一般理論』を超単純化して解説している。「これでいいんだ」と安心できる。たった3行。ポストケインジアンの一人ルイジ・パシネッティの説明に基づくそうだ。

まず、流動性選好と貨幣供給量の関係で利子率が決まる(流動性選好説)。
次に、利子率は、資本の限界効率との関係で投資を決める。
最後に、投資はY=C+Iに・・・C=f(Y)を代入することによって、YとCを同時に決めると(乗数理論)。(p.114)

【参照文献】

佐和隆光『経済学とは何だろうか』
伊東光晴=根井雅弘『シュンペーター』(読書メモ)
伊東光晴ケインズ
森嶋通夫『思想としての近代経済学
吉川洋ケインズ』『構造改革と日本経済』
E・H・カー『歴史とは何か』

【関連エントリ】

経済学はこう考える (ちくまプリマー新書)

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