「みんなで決めよう『原発』国民投票」が条例制定を大阪市に直接請求:脱原発について国民投票をすべきか?

朝日新聞より。http://www.asahi.com/national/update/0109/OSK201201090059.html

大阪の原発住民投票審査へ 市民団体「法定数超す署名」
大阪と東京で原発の是非を問う住民投票を目指す市民グループ「みんなで決めよう『原発国民投票」は9日、投票条例制定を大阪市に直接請求するために市民から集めた署名が地方自治法で定められた必要数(有権者の50分の1)を超えたと発表した。

 16日に署名簿を大阪市選管に提出する予定で、市選管の審査でも必要数が認められれば橋下徹市長に条例制定を請求する。投票の実現には市議会で過半数による可決が必要で、議会の対応がカギ。原発の立地・誘致自治体以外で住民投票が実現すれば全国で初めてで、消費者の意思を電力会社や自治体に明示する機会となる。

 署名集めは昨年12月10日にスタートし、大阪は9日が期限だった。発表によると、9日時点で集計できた署名は必要数の4万2673人分を大きく超え、5万人に達したという。最終的に約5万3500人分になる見込み。署名簿が提出されると、市選管は名前・住所・押印があるかなどを審査する。

1.国民投票という論点

原発問題についての論点の一つとして<原発について国民投票をするか>というものがある。ヨーロッパでは国民投票が行われ原発停止が決定されたなどとニュースになっていたが、日本では国民投票の制度自体がない。あるのは憲法改正に関する国民投票憲法規定のみだ(憲96条)。よって国民投票をするには「原発国民投票法」といった法律の制定が必要になる*1

2.国民投票を目指す運動

このような法律の制定と法律に基づく原発に関する国民投票の実施を目指している人たちがいる。ジャーナリストの今井一氏が中心になっている"みんなで決めよう「原発国民投票プロジェクト"という運動(http://kokumintohyo.com/ )。
現在は法律と並行して東京都と大阪市原発について都民・市民投票を行うための条例の制定をもとめる直接請求をやるために都民・市民の署名を集めている。条例の方は、法定の手続なので当然都民・市民が直接署名しなければならない(法律の方はネットで署名するだけ)。冒頭の記事は大阪市の方は既に必要な署名が集まったというもの。東京の方は以下の要領で署名活動を行っている(新宿・渋谷などターミナル駅を中心にほぼ毎日)。
http://kokumintohyo.com/branch/archives/91
賛成するか反対するかはともかく原発問題は日本国民全員が関心をもつべき問題であることは間違いないだろう。本当は原発問題に無関心な人には「日本人としてどうなの?」くらい言いたいところだがリベラリズムの建前上それは言えない。

3.個人的にはどう考えるか?

さて、個人的にはどう考えるか。難しい。やるべき根拠として大きいのは<現状の議会政治・政党政治では原発維持という結論しか出ないから>。やるべきでない根拠として大きいのは<ポピュリズムに陥いるから>。これは安易な/極端な脱原発に向かうということ。
本当に現状では原発維持という結論しか出ないかは疑ってみる必要があるだろう。
一方、最近の日本の選挙をみてもポピュリズムの気配は濃厚だ。しかし、間違った政治的決定(例えば、民主党に政権を任せる)をして痛い目をみることで<国民の政治意識を高まる>という教育的効果を考えるとやはり「やらざるをえない」という結論になりそうだ*2。いずれは日本もせめてヨーロッパ並みの民主主義国にならないといけないんだから。
ただし、国民投票実施の前に満たすべき前提がある。第一に<国民投票する際の選択肢をどうするか>という重要な問題が解決されること。ここで例えば取り返しのつかなくなるような極端な決定を排除しておかないとマズイだろう。第二に適切な準備期間を設け、投票前に議論がちゃんとされること。そうしないと教育的効果もないので。

4.国民投票の選択肢をどうするか?

3.で書いたように選択肢が重要だ。この問題を考える際には1980年スウェーデンで行われた原発に関する国民投票が参考になるだろう(飯田哲也『エネルギー進化論』(2011))。この国民投票は前年のスリーマイル原発事故を受けて1年の準備期間を経て実施されたもの。このときの選択肢は次の3つ。

  1. 既存原発12基は再生可能エネルギーで代替できるようになるまで維持。ただし新規建設は中止。
  2. 上記1に加え、政府主導の様々な政策(再生可能エネルギーの研究開発、省エネルギー政策の推進、市民参加の原発安全委員会の設置、原発の国有化を促進など)
  3. 稼働中原発6基を10年以内に閉鎖する。

結果はどうだったのか。得票率はそれぞれ、1.が18.9%、2.が39.1%、3.が38.7%だった。さてこれは脱原発賛成なのか反対なのか。どう解釈するか難しい。実際、スウェーデン政府も混乱した。彼らは1980年当時進行中だった原発建設を中止せずそのまま完成まで進める一方、2010年までに原発をゼロにするという宣言をしたという。このように日本よりは先進的な民主主義国と思われるスウェーデンでもこんな具合だ。日本でやったらどうなるだろうか。

5.直接請求という方法は妥当か?

原発国民投票プロジェクトには山本太郎氏などが参加しており胡散臭い雰囲気は確かにあるのだが、直接請求は憲法の定める参政権を実現する地方自治法の現実の正当な制度であり、民主主義国では普通の、ありふれたものだ。何も特別な人たち(左翼)が自分たちの<実存>のためにやるものではなく、一般の人たちが常識に基づいて自分で判断して行動すべきものだ。この点で直接請求という方法を採っている「原発国民投票プロジェクトのやり方は妥当といえるのではないか。

【参照文献】

 ※「原発国民投票プロジェクトのシンポジウムの内容を書籍化したもの
エネルギー進化論―「第4の革命」が日本を変える (ちくま新書)

エネルギー進化論―「第4の革命」が日本を変える (ちくま新書)

*1:もちろん国民投票の結果が国会に対して法的拘束力をもつことはないので、諮問としての位置づけにはなる(憲41条)。

*2:このような「国民の教育的効果を考慮して仕方なく賛成」というのは自分が裁判員制度導入の際にとった態度でもある。