堀江貴文『ホリエモンのとりあえず最後の言葉』

2011年に出版された本を紹介する22冊目。今回も21冊目堀江貴文『成金』に続いてホリエモン。堀江氏の本を紹介するのももう7冊目だ。私が堀江氏の本のどこに読む価値を見出しているかについては以前のエントリホリエモンの人気の理由は何か?を参照。本書は7冊目にしてやっと読む価値ありと言えるインタビュー本。田原総一朗氏のインタビュワーとしての手腕が発揮されている。自分が知りたいと思っている堀江氏の価値観(<強度><超越><全体性>)にちゃんと迫っている。

堀江貴文ホリエモンのとりあえず最後の言葉』(2011)アスコム ★★★★

本書は田原総一朗氏がホリエモンにインタビューしたもの。『嫌われることを恐れない突破力!』(2010)の読書メモで堀江氏と勝間和代氏の対談を仕切っていたのを読んで、「田原氏を見直した」と書いたが、本書でも田原氏はいいインタビュワー。『嫌われること〜』は堀江氏の対談本で最もマトモだったが、本書は堀江氏のインタビュー本で最もマトモといえる。やっぱり田原氏やるな。

例えば、堀江氏が「スマートフォンをやろうと思っていた。ソニーを買収する計画があった」などと言い訳がましいことを言うと、田原氏は「じゃあ、何でソニーの前に、フジテレビ買収なんてムダなことをやったの?」(p.111)と的確に突っこんでいる。


タイトルは"収監前の最後のインタビュー"という意味だろう。内容は今までの堀江氏の活動を一通り振り返るもの。例えば、フジテレビ買収騒動、ライブドア事件、ロケット打ち上げ。上に述べたように田原氏のお陰でちゃんとした内容になっているので堀江氏の一連の行動を知るために最初に読む本としておすすめできる。


以下、内容のメモ。


若いうちに金持ちにならないと意味がない。


自粛しなかったから検察にやられた。自粛という同調圧力(ピアプレッシャー)に逆らった。


先日、船曳建夫東大教授が送別会をやってくれた。へぇ。

僕は、たぶんみんな等しく、貧しくなっていくことを、静かに許容すると思う。「みんなで一緒に貧しくなろう」みたいになっていく。(p.27)

同感。こういう一般人が思ってそうなことをハッキリ言うのがいい。「みんなで一緒に貧しくなろう」と言ってるのは、例えば、内田樹氏だろう。団塊世代の逃げ切りということだ。


ソフトバンクがまだ社員2人の頃(1982年)、堀江氏は孫正義氏に会って「何がしたいの?」と訊いたら「インフラをやりたい」という答えが返ってきた。狙い通りになっていてスゴい。


堀江氏の特徴、いつもの合理主義も健在。

ほとんどの銀行がネットバンキングに対応しているにもかかわらず、昼休みに銀行のATMに並ぶ人を見るともう「この人たちは何をしているんだろうな」って思ってしまう。(p.48)

同感。自分もATMに並ぶことはなくなったな。


もう一つの特徴、コンサマトリーな動機も健在。

田原 名誉欲もない。権力欲もない。金欲もないんだ。
堀江 はい。ただ、おもしろい人たちとお話をして、おもしろい未来をつくっていきたいと思っている。「こんなことできるんだ!」って、みんながびっくりするのを見るのが、僕は好きなんです。(p.193)

ここも田原氏のツッコミがいい。まさに<強度>を求める行動。「こんなこともできるんだ!」というありえなさは<社会>の外に出る感覚をもたらす。これが<超越>*1で、<社会>の中にいること(<内在>)と対比される。<強度>と<超越>は相性が良い。だから観客に<強度>を与える犯罪を題材にした映画・マンガなどが多い。


楽天がTBSを買収している段階で放送法を改正し、テレビ局の株式の1/3以上を単独企業が保有するのを禁止した。
本当?もし本当なら遡及立法禁止の原則にほとんど抵触する感じだ。テレ朝の件も同様だという。ルパート・マードック孫正義氏が組んでテレビ朝日を買収しようとしたときにも放送法外資規制(外資はテレビ局を20%以上保有してはならない)を導入した。

堀江 要は「現実」って何なんだっていう話なんですよ。
田原 そこ、そこが問題。(p.134)

コンピュータの未来を話していてこの問いに行き着く。映画『マトリックス』などを例に挙げている。そう、これが問題だ(以前のエントリ「なぜ世界があるのか?」:人類史上最大の問い)。だから堀江氏にはちゃんと哲学も勉強してもらいたい。塀の中で。


ライブドア事件の株式100分割については「宮内亮治氏が勝手にやった」「東証に事前に問い合わせてOKをもらった」「100分割しても持株の1/100が値上がりするだけで自分にメリットがない」などと反論している。残念ながらあまり説得力がない。


検察の取調室で、能面のような検事にムカついて「お前ら、何が楽しくて生きてんの?」と罵ってた。
これはおもしろい。能面のような検事は<意味><社会><内在>の象徴と言える。一方、堀江氏は<強度><世界><超越>を象徴している。後期近代を迎えた現状では<社会>の中でシステムを維持するための人生を送るのと<強度>を求めてシステムの外に出ようとする(やり過ぎてムショ送りになるとしても)人生を送るのとどちらが楽しいか答えは明らかではないか。それにシステムを維持するって言っても、村木厚子氏の郵便不正事件を見れば分かるように検察はその仕事すらできてないし。もちろん政府全体がシステムを維持できていないので絶賛崩壊中。


いつものように堀江氏の無知がバレている箇所がいろいろがあるが今回はこれが最もヒドいと思われるこれをメモ。

それ[ネクタイをすること]は日本におけるコモンセンスなんですよ。で、明文化されないからコモンローにならないんです。(p.32)

コモンローを真逆の意味に使ってる。コモンローは多義的な言葉だがこの場合「不文法」という意味だ。明文化されないからこそ不文法だっていうのに・・・。

【参照文献】

中川一徳『メディアの支配者』 ※フジサンケイグループ創立者鹿内信隆氏とその一族の権力争いの話らしい。これが『拝金』『成金』のネタモトになっている。この2冊の主人公「オッサン」は鹿内一族を追い出された人物ということになる。
神一行『閨閥

*1:本当は<社会>の外の<世界>のさらに外に出ることだろう。それが形而上学