岩田規久男『ユーロ危機と超円高恐慌』
2011年に出版された本を紹介する32冊目。今回は岩田規久男氏。岩田氏の本は2011年にたぶん5冊出ていてそのうち4冊は紹介したが、未読だった最後の一冊を読んだので紹介したい。11冊目として紹介した『デフレと超円高』を岩田氏の2011年ベストと推していたが、本書の方がよりよかった(どちらもいいが)。本書は『デフレと超円高』を分かりやすく圧縮して、その分ユーロ危機についての文章を追加したような本。
- 作者: 岩田規久男
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2011/12/23
- メディア: 新書
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岩田規久男『ユーロ危機と超円高恐慌』(2011)日本経済新聞社 ★★★★
『デフレと超円高』に続いて岩田規久男氏。新刊が出ていたので読んでみた。
本書はタイトルどおりユーロ危機と超円高について解説したもの。ユーロ危機については具体的な事実をまとめて紹介し、超円高についてはマンデル・フレミングモデル(ヒックスのIS/LMモデルの国際版)を解説している。緊急出版とのことだが、非常に分かりやすいのではないだろうか。『デフレと超円高』もよかったが、本書はよりいい印象を受けた。読む価値あり。個人的には岩田氏の2011年ベスト1。
【第1章 ギリシャ危機の経緯】
2009年10月、パパンドレウ政権が予算編成中に政府債務対GDP比の数値が間違っていたとして修正(5→7.7→9.8%)。
2010年3月、ユーロ諸国がギリシャ支援を表明。5月、ユーロ諸国とIMFがギリシャ支援計画を発表。今後3年で730億ユーロ。そうこうしているうちに、ポルトガルやアイルランドにも飛び火しEUは金融安定化策を発表。EFMSとEFSFという基金と政府保証。ここからポルトガル(11年4月、780億ユーロ)、アイルランド(10年11月、850億ユーロ)に融資がされた。その後、EUは安定化策の拡充や融資期間延期などを行っている。ECBも国債を買い支えている。
細かいニュースをその都度見るより本でまとまっていた方がさすがに分かりやすい。
ギリシャは増税している。2010年には増収になったが2011年は減収になると予想されている。
パイが減ってるからなぁ。日本もどうなるか。
岩田氏はユーロ諸国、IMFの緊縮財政による財政再建を批判している。「まずは金融緩和政策でインフレに持って行け」という。
さすが、ブレない。
【第2章 リーマンショックからユーロ危機への波及過程】
リーマンショック→欧州の銀行の信用収縮→南欧・東欧政府が財政支出を拡大→ギリシャなどの債務危機→欧州の銀行など南欧の国債を保有する金融機関全体の信用収縮。リーマンショックの時と違って政府に財政支出拡大の余力が乏しい点が問題。
【第3章 ユーロは崩壊するか?】
条件付でYes。
ユーロの根本的な矛盾は金融政策は統一されてるのに財政政策はバラバラだということ。
今回・・・明らかになったことは、単一通貨ユーロの導入による、一つの金融政策と加盟国ばらばらの財政政策は両立しない、ということである。(p.98)
マクロ経済学的には当たり前だろう。だが、この前提が一般のマスコミでどれだけ共有されているかは疑問。
こんな記事*1が「スゴい」と話題になるくらいなので。
この財政政策の不統一という問題を解決しないと根本的には解決しない。この問題が解決できないのであれば、最適通貨圏の理論(単一通貨が最適な範囲は生産要素が低コストで移動できる範囲と主張する理論)に基づいてユーロの範囲を狭めるしか存続の途はない。具体的には現在の17カ国からドイツ・フランス・ベネルクスの5カ国に絞るしかない。ずいぶん小さくなっちゃう。
【第4章 ドルの信認は崩れたか?】
岩田氏はNoと答える。
「有事のドル」の地位は少しも揺らいでいない。(p.148)
まあ相場を見れば簡単に答えが出るんじゃないかな。むしろ「リーマンショック後の金融政策がよかった」という話がメイン。
●リーマンショックは100年に一度の危機か?
No。リーマンショックは大恐慌後の不況と比べて、まったく比べ物にならないほど小さい。大恐慌後の不況は3年後に実質GDP(アメリカ)が74%にまで落ちている。今回は3年目で早くも100%を越えた。実質成長率がマイナスだったのは3四半期のみ。
なぜ小さくて済んだか。岩田氏は政府・中央銀行の金融安定化策や金融(信用)緩和策(要は債権・証券の買入れ、直接貸し出し)が功を奏したからとする。QE1やQE2と呼ばれるもの。
【第5章 なぜデフレは悪か?デフレの原因は何か?】
本書で最も重要な章。これらは岩田氏がいつも書いている話。デフレの悪は「債務の実質的負担が大きくなること」だろう。デフレの原因は日銀の金融政策。そこに至るまでインフレ期待の話をして自己成就予言についても言及している。
円高の原因もデフレ、すなわち日銀。その根拠として本書に名前は出てこないが マンデル・フレミングモデルを分かりやすく説明してくれる。ここが本書の見所だろう。『デフレと超円高』でも同じ話をしてくれていたんだろうが、本書でやっと腑に落ちた。いい加減な読者でごめんなさい。
●マンデル・フレミングモデル
結論としては為替レート(例えば、円ドルレート)は
で決まるということ。単純な式だが重要な知見だろう。もちろん数字が小さい方が円高。今は日本の名目金利が低く予想インフレ率も小さい(むしろマイナス)なので円高になっている。この名目金利・予想インフレ率の責任が日銀にある、と。アメリカがリーマンショック後に金融緩和したのに日銀はしなかったから。ちゃんと辻褄が合っている。
●予想インフレ率と株価・為替
ドルの予想インフレ率とダウ平均株価の相関係数は0.8。為替レート(ドルの名目実効為替相場)との相関係数も0.8。
こういう数字を見せられるとインフレ期待ってスゴいんじゃないかと思う。
【第6章 まとめ】
今までのまとめとお約束の日銀法改正→インフレターゲット政策の話。
【その他】
●年金のマクロスライド制
これまでデフレが続いたため、現役世代の名目賃金総額が減少しているにもかかわらず、政府はマクロスライド制の実施を見送り、年金積立金を取り崩して対応してきた。(p.167)
まったくその通り。ムカつくわ。
●輸出産業の収益性(国際競争力)の定義
国際競争力=交易条件/実質実効為替相場
へぇ。これは単純で分かりやすい。岩田氏は今の日本では、輸出価格の低下が輸入価格の低下を上回っているため交易条件は悪化しているとする。
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