高橋洋一『この経済政策が日本を殺す』

2011年に出版された本を紹介する33冊目。前回紹介した岩田規久男氏が自分の中では「経済ニュース担当」という位置づけだが、「経済+政治ニュース担当」なのが高橋洋一氏。経済政策に関しては二人の主張は結構共通している。高橋氏は経済政策を政治過程に基づいて解説する点が優れていると思う。氏の財務官僚だった経験や竹中平蔵大臣の下で働いた経験に基づくのだろう。

この経済政策が日本を殺す 日銀と財務省の罠 (扶桑社新書)

この経済政策が日本を殺す 日銀と財務省の罠 (扶桑社新書)

高橋洋一『この経済政策が日本を殺す』(2011)扶桑社 ★★★

いつもの高橋洋一氏。新刊が出ていたので読んでみた。『夕刊フジ』の連載を再構成したものとのこと。前半は新書っぽくなっているが、後半は連載をそのまま載せている。後半というのは3.11以降で内容は復興について。前半はいつもの日銀・財務省の経済政策批判。前半は何度も読んだ話で新味はない。後半も特に大したことは書いていない。

【経済政策】
●なぜ金融政策は軽視されているのか?
  1. バブルの後遺症があり金融引き締めにしか用いられないから
  2. 財務省は金融引き締めにしか興味がないから(日銀は財務省の影響が強い)
  3. 固定相場制での後遺症(固定相場制は金融政策は効果がなかった)
●為替介入はどうやるか?

財務省の指示を受けた日銀が外貨債などを金融機関から買う。その際の資金は為券と呼ばれる政府短期証券を市場で売ることで得る。よって金融緩和にはならない。従来は日銀が為券を引き受けていたので金融緩和になったが。へぇ。

【復興】
増税ではなく国債

根拠は課税平準化説。まあ、これが経済学の常識なのだろう。
具体的には復興国債を発行し日銀引き受けする。日銀引き受けは日銀法で禁止されているが(5条)、但し書きで国会の議決があれば可。ここまではいつも通りだが次が違う。実は既に23年度予算で「引き受けができる」と定めている。日銀引き受けは毎年行われていると言っているが、意味がよく分からない。
増税派は「国債ではインフレになるという。戦後もそうだった」と言う。しかし戦後は供給がほとんどゼロだったからインフレになった。今は供給は十分。海外からの輸入もある。だからそう簡単にインフレにはならない。

●復旧ではなく復興を

これも常識的だが重要。阪神大震災では神戸港を復旧したので韓国などの港に負けた。
本書ではなぜ復旧になってしまうのか書いてありよかった。それは公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(災害負担法)という法律で国が国庫負担金を出す目的が「原状回復」に限られているため
こういう元官僚らしい法律の細かさも高橋氏が凡百の経済評論家と違うところ。

地方分権

地方政府の人で復興院を作ってもらって、そこに国から権限委譲し、地方分権を進めるべき(東北州を作る)。

●日銀の金融緩和

充分でない。

OECDの大震災後の対日審査報告書

OECD需給ギャップを原因とするデフレを指摘しインフレ目標の導入を提案している。その後、社会保障・税制の構造改革
経済政策→構造改革の順でやれというのが高橋氏と共通しているということだろう。

●規制の虜理論

ジョージ・スティグラーの規制の虜理論(regulatory capture)。若田部昌澄氏によれば「規制されている側が、規制当局を意のままに操ってしまうという逆転現象」。出典は『小さな政府の経済学』。

後藤新平高橋是清

まあ、よく出てくる話。

【その他】

失われた20年の間、欧米先進諸国は給与所得が2倍になった。日本は横ばい。
これは大前研一氏が『日本復興計画』で言っていたのと同じ話だ。名目額で比べて印象操作している。こういう辺りが信用ならない。

【参照文献】

藻谷浩介『デフレの正体』 ※デフレを個別の商品の価格下落にすりかえている。デフレの原因を人口減少に求めているが実証データはない。
高橋是清高橋是清自伝』『随想録』