なぜ日本ではリフレ政策(インフレ目標)が効かないのか?:安達誠司(『円高の正体』)× 飯田泰之

SYNODOSより。

円高が好きな人たちの「正体」とは? ―― 安達誠司(『円高の正体』)× 飯田泰之
http://synodos.livedoor.biz/archives/1901440.html


エコノミストの安達氏と経済学者の飯田氏(駒沢大)の対談。「円高は日銀のせいだ」という岩田規久男氏(学習院大)のいつもの話をしている。
対談の前半は「需給関係が円高の原因だ」という話。前半で需要は「大勢を変えない」とした上で、後半は供給不足の解決策としてのリフレ政策(インフレ目標)の話。

●リフレ政策はアメリカでは効くのに日本では効かないのは謎?

飯田 日本の新聞は「アメリカが量的緩和政策をにおわせたので、ドルが安くなりました」という記事の隣で、「日本では量的緩和をしても効きません」と書いたりする。なんだそれ? と言いたいですよ。[・・・]アメリカでは金融政策が効いているんですから。

安達 「でも日本では効かない」となっている。

飯田 それが謎ですね

本当に謎だろうか?謎じゃないと思う。安達氏・飯田氏もこのすぐ後で自ら「効かない」と言っている。

●日本でリフレ政策が効かないのは謎ではない

飯田 そうです。さらに言えば、デフレ下では手段の独立も与えないほうがいいんじゃないか、とさえ思うことがあります。おそらく2%のインフレーションターゲットを法律で定めたとしても、何もしないというオプションがありますから。あとインフレ率が上がってきても、例えば2000年と06年のゼロ金利解除みたいに、将来に高いインフレ率が予想されたとかいって引き締められたら……

安達 絶対に効かない

これはインフレターゲットを法定し、日銀から目標の独立性を奪っても、日銀が本当に目標を達成するとは誰も思っていないってことだろう。だから手段の独立性も奪ってしまえという話になる。「信用されていない」イコール「期待インフレが高まらない」ということである。一方で為替レートは名目金利と予想インフレ率で決まる(岩田規久男『ユーロ危機と超円高恐慌』参照)。以上の二つの命題から「日本ではリフレ政策は効かない」という結論が出る。よって謎ではない。

●どうしたら日本でリフレ政策が効くのか?

対談では「インセンティブ設計だ」ということになって次の意見が出てくる。日銀が働かないのをエージェンシー問題*1ととらえるということだ。

飯田 公務員の毎月の給与は民間の給与水準と連動させる、ボーナスは名目GDPに連動させる、といったシステムにすると全然違ってくると思いますよね。

おもしろいアイデア*2だけど、これが出来れば苦労しないのでは。そこは日本政治の根本問題である官僚内閣制が立ち塞がるので。


このように考えてくると、ただ経済学的にリフレ政策を説くだけでなく、政治学(行政学)的に官僚を考える必要があると分かる。この意味で経済政策と官僚政治批判を同時にやっている高橋洋一氏の議論は重要だといえると思う。

ユーロ危機と超円高恐慌 日経プレミアシリーズ

ユーロ危機と超円高恐慌 日経プレミアシリーズ

*1:本人の利益のために委任されている代理人が、本人の利益に反して代理人自身の利益を優先した行動をとってしまうこと

*2:公共財の提供という政府の役割から政府の規模(公務員の給与)を決めるっていう原則に反するという問題はある。