棟居快行、赤坂正浩、松井茂記、笹田栄司、常本照樹、市川正人『基本的人権の事件簿[第4版]』
2011年に出版された本を紹介するシリーズの46冊目。前回の長谷部恭男氏(『法とは何か』)に続いて憲法学者のものを。
- 作者: 棟居快行,赤坂正浩,松井茂記,笹田栄司,常本照樹,市川正人
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2011/03/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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棟居快行、赤坂正浩、松井茂記、笹田栄司、常本照樹、市川正人『基本的人権の事件簿[第4版]』(2011)有斐閣 ★★★
木山泰嗣『憲法がしゃべった。』(2011)を読んでもうちょっとまともな一般人向け憲法入門書があるんじゃないかと思いamazonを見ていたら本書の新版が出ていたので読んでみた。市川正人氏(立命館大)は『現代の裁判[第5版]』(2008)以来だ。棟居氏は阪大、赤坂氏は神戸大、松井氏はブリティッシュ・コロンビア大学、笹田氏・常本氏は北大のそれぞれ法学部教授。全員憲法学者。
本書は基本的人権に関する24の判例を紹介したもの。大学1、2年のためのテキスト、3、4年のゼミの教材として書かれているそうだ。
分担執筆にありがちだが、章ごとに書き方が統一されていない。章によっていいと思ったり気に入らなかったりという感じ。ただ全体的に事件の概要が参考になった。普通の判例集にはあまり書いていないようなこと(法学的でないこと)が書いてあるのがいい。扱っている事件はほとんどが有名なもの。国立マンション事件とか反論文掲載事件とかエホバの証人輸血拒否事件・エホバの証人神戸高専事件とか立川自衛隊官舎ビラ配布事件とか。もちろん知らない事件もあったが。
以下、内容のメモ。
【修徳高校バイク退学事件 松井】
だが問題は、はたしてこのようなバイクに乗る自由を、憲法によって保障された基本的人権とみることができるかどうかである。(p.21)
この解説が気に入らない点は「憲法上の権利だったら何だっていうんだ?」と思うため。憲法上の権利が特別なのは法律を違憲にできるくらいではないか。この後、結局「校則がどこまで生徒の私生活を縛れるか」という問題に移り目的論的に「その校則が教育目的かどうかで判断する」と述べている。
最初からこう考えればいいと思う。まあ専門家が言うんだから自分の知らない理由があるかもしれないけど。
【図書館情報大学通称使用事件】
芸名、筆名は経済的価値があるため保護されやすい。しかし旧姓にも同じように経済的価値がある。本件の場合も原告は大学の研究者として旧姓で活動してきた。
【エホバの証人輸血拒否事件】
亡くなった信者は当時68歳で肝臓ガンだったという。
これを知るとイメージが変わる。信者の子どもが交通事故に遭った事件もあったような。
【どぶろく訴訟】
酒税法がどぶろく製造を禁ずる趣旨は製造を認めると酒税が減るというもの。
こんなん今は成り立たないだろう。しかも酒税法では酒類に水以外のものを混ぜることも「酒類の製造」とみなすと規定している(43条)。梅酒だけに例外規定があるらしい。アホらしいなぁ。行政法はこういう下らない(因果関係に基づく規制の)話が多い気がする。
【湾岸戦争90億ドル訴訟 棟居】
湾岸戦争の戦費の支出が平和的生存権を侵害するとして提起された訴訟。この事件自体は知らなかった。似たような事件はよくあると思うが。解説の中で次のような文があるがこれは賛成。
裁判所は、権利があるとかないとかの机上の議論はいい加減にしておいて、事実を中心にした判断をすべきだということになる。(p.120)
【国立マンション事件】
昭和初期、国立の開発の目玉としてデベロッパー箱根土地が一ツ橋から一橋大学を誘致する際に、ドイツの大学都市ゲッティンゲンを模して設計した。
町自体が大学中心に作られたということであれば「大学通り」はそれだけ重要だということか。この判例も(原告の主張にあわせて)景観利益がどうこう言っているが結局はマンション建築が行政法規・刑罰法規に違反するものかどうかが判断基準になっているように思える。
【君が代ピアノ伴奏事件 棟居】
この種の事件は毎年各地で起きており、[・・・]正直な感想としては、「他にやることがあるのではないか?」と両当事者に言いたい読者も多いのではないだろうか。(p.193)
ハッキリ言っちゃってておもしろい。これも棟居氏。
【エホバの証人神戸高専(剣道拒否)事件】
神戸高専には格技のための施設がなかったので、それを知ったエホバの証人の子どもが集まる傾向にあった。しかし武道館ができたので体育で剣道をやることにした。学校側はそれを入試説明会などで説明していた。
この事件は生徒側が信教の自由の侵害だと主張し、学校側が政教分離に反すると主張している点がおもしろい。「政教分離は信教の自由を守るための制度」なんていうのはうさん臭い。