なぜ日本の林業はダメなのか?

前回は八田達夫・高田眞『日本の農林水産業(2010)(読書メモ)を基に農業について書いた。今回も同様にこの本を基に林業について考えてみる。自分は林業について読んだ本はこれが初めて。まったく馴染みのない分野だったので新鮮で参考になった。日本の林業に関するbig pictureを得るのに有用だろう。

●日本の林業の現状

日本の人工林の8割は未整備状態。土砂災害の危険性が高まっている。日本の人工林は1955年以降、高度成長にともなう需要急増に対応するため建築用材としての木材を確保するために植林された。よって成長の早いスギ・ヒノキが中心となった。しかし日本の林業の生産性の低下により、国産木材は輸入木材に負けた。90年代以降、木材供給の約80%は輸入に頼っている。金額的にはピーク(1980年)の1/5程度。これはよっぽどのことだ。なぜなら木材は輸送費が非常に高いので国産が非常に有利だからだ。

●なぜ日本の林業は腐敗しているのか?

にわかには信じられないが八田氏はこの問いに「林野庁が森林破壊の防止をしようとしないため」と答えている。農林水産省設置法に完全に反するんだが。

第三十条  林野庁は、森林の保続培養、林産物の安定供給の確保、林業の発展、林業者の福祉の増進及び国有林野事業の適切な運営を図ることを任務とする。

なぜ林野庁は森林破壊の防止をしようとしないのか。林野庁が予算を獲得するためだという。林野庁の予算は森林修復の予算であって、森林破壊の予防をしてしまうと予算が得られなくなる。典型的過ぎるマッチポンプ。本当ならあまりに酷い。

●日本の林業の問題点は何か?

八田氏は林野庁の具体的な問題として以下のような問題を挙げている。
(a)森林を間伐の要不要・採算性で区別していない。人工林と天然林(自然林)の区別を明確にしていない。
(b)間伐・伐採に必要な路網を政府が提供していない。路網は公共財なので政府が提供すべき。
(c)その他:森林組合が参入障壁、森林情報が公開されていない(例えば、森林境界)、事業者の事業規模が小さい。

●(a)森林を間伐の要不要・採算性で区別していない

天然林とは自然に成立している林。間伐は要らない。コストをかけずに治山治水の効果がある。
人工林とは植林で成立した林。維持のために間伐が要る。木が一斉に成長しているため、光を遮るので下草が育たず、土がむき出しとなり土砂崩れ・流出を招く。よって間伐により光を通し下草を生えさせる必要がある。


現在、林野庁が行っている森林の区分は採算性や間伐の要不要とは関係のない意味のないもの。そこで人工林と天然林を区別し、人工林の中でも木材生産で採算がとれる人工林とそうでない人工林を区別するべき。そして採算にのらない人工林は天然林に転換するか、伐採し、違う樹木を植える必要がある。採算にのる人工林については間伐を行うべき。

●(b)路網を政府が提供していない

路網とは森林の中の道のこと。林道、作業道など。路網を整備しなければ間伐が行えない。路網は公共財として政府が提供すべき。路網が整備されていないと事業者はまとめて伐採するようになる。買い手の注文に応じてその度に伐採していると非効率なので。するとそのときの価格で買い叩かれたりする。

●(c)森林組合が参入障壁

農協を参考にしたんじゃないかと思うくらい農協とそっくり。農協と同様に特権を有し、独占が認められ、公共事業(国有林の間伐・伐採)の受け皿になっている。ただ金融事業をやっていないだけ農協より害は小さいだろう。


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