小松正之『日本の食卓から魚が消える日』

以前のエントリの続きとして、それとは別のエントリで参照した本書の読書メモを載せておく。

小松正之『日本の食卓から魚が消える日』(2010)日本経済新聞社 ★★★

八田達夫、高田眞『日本の農林水産業(読書メモ)で参考文献に挙げられていたので読んでみた。著者は元水産庁の官僚でIWCなどの国際交渉を行ってきた人。現在は政策大学院大学教授。


本書は漁業の問題について幅広く論じたもの。総花的になっていてまとまりがすごく悪い。よって全体的にはイマイチだ。個人的には、漁業の問題の中で重要なのは『日本の農林水産業』で挙げられていたオリンピック方式漁業権だと確認できた点はよかった。この2つの問題についての本書の内容は『日本の農林水産業』とかなり重複している。ただ、実務家だったということもあり実例は本書の方が豊富。

●魚群探知機を利用した巻き網漁

クロマグロの9割が0歳〜1歳の間に獲られている。そうした小さいマグロは安くしか売れない。若いマグロは脂がのっていないため安いというのもある。魚群探知機を使った巻き網漁業の発達により、生育する前に獲れるようになった。魚は一般に小さい時には群れて、大きくなるとバラけていく。よって巻き網漁は生育前の魚を獲ってしまう。巻き網漁は80年代から急激に増えている。巻き網漁にははえ縄漁の20〜30倍の漁獲能力がある。
はえ縄漁では大量には獲れないし、定置網漁では魚群を追いかけて獲るということができないのだろう。巻き網漁業最強ということか。

●高齢化による改革の阻害

関アジ・関サバが獲れなくなっているが漁師が高年齢化しており将来の資源確保のため動こうとしない。

佐賀関の一本釣りの漁師にしても、・・・半分以上は六十五歳以上の年金受給者であり、関アジ、関サバが釣れなくてもよいので、改革のために立ち上がろうとしない。(p.27)

興味深い。農業の問題と全く同型だ。

●ITQ方式

ITQを導入すれば、海の中に在庫があることになるのだ。[それは]漁業者の強みなのだ。明らかに自分の強みになるITQに漁師は理解もせずに反対しているのである。心底もったいない。(p.63)

全く同感。日本の水産業における「市場の失敗」は漁師の"自爆"としか思えない。ただ私は「日本が未だにオリンピック方式なのは漁師がITQ方式を理解できないから」という小松氏の説明が本当に正しいのかまだ疑問だが。

●漁協

戦前の農業における地主と小作農と同じ関係が、漁業における網元と水夫にあった。漁業権を独占していた網元の団体「漁業会」を解散し漁業協同組合を設立し、漁業権を与えることで組合員である漁師に漁をする権利を与えた。漁業権は漁協が所有し、組合員は共同漁業権を共有ないし総有する。
実態としては漁師の子どもしか組合員になれない。水産加工業者なども組合員になれるようにすべき。

●漁協の競りは不要になるべき

漁協の役割は、漁業者の漁獲物を共同で出荷して販売すること。実際の販売は競り場を開いて、中卸業者に対して競りにかけている。これは漁師がいつどれだけ何が獲れるかも分からず「早い者勝ち」で漁を行っているので、漁獲物が種類・大きさにおいてバラバラになっているため目利きが必要だから。ITQ方式の導入により計画的に漁を行うようになれば品質が統一され競りを行わず、漁師が漁獲物を直接流通に流せる。

●統計

漁業者の人数は109万人(1949)→21万人(2009)。水産加工業者も21万人。現在も毎年1万人ずつ減っている。新規参入者も5、60歳代。
一人当たりの年間水産物消費量は72キロ(1988)→56キロ(2007)。

東日本大震災

岩手県大船渡湾口の防波堤は必要か?」(p.44)と問い、「今や警報のシステムが発達している。大きな死亡被害者は出ないだろう。」(p.45)と答えている。まさか本書出版直後まさに東北であんな大津波の被害が発生するとは思わなかっただろう。これは被災者から非難されてもしかたない。

津波は30年か40年に一度訪れる。しかし、津波によって命を失う確立は警報さえしっかりしていればほとんどないに等しいのではないか。科学の発達した今、予知ができるのである。(p.49)