高橋洋一『高橋教授の経済超入門』

2011年に出版された本を紹介する35冊目。前回紹介した『これからの日本経済の大問題がすっきり解ける本』に続いて高橋洋一氏。本書は経済ニュースのキーワードを解説する日本経済入門本という位置づけだが、実際はいつもの「増税反対、日銀法を改正してインフレターゲットやらせろ」という話。内容が薄くてオススメできない。

高橋教授の経済超入門

高橋教授の経済超入門

高橋洋一『高橋教授の経済超入門』(2011)徳間書店 ★★

いつもの高橋洋一氏。高橋氏はこのところ『この経済政策が日本を殺す』『これからの日本経済の大問題がすっきり解ける本』と続けて大震災後の経済復興について書いていたが、本書は経済ニュースに登場する用語解説の形式をとった日本経済の入門書。といっても、用語解説はわずかで、結局、いつもの金融緩和・増税反対・インフレ目標などについて書いている。
読んだ印象は「中身が薄い」。日本経済については『日本の大問題が面白いほど解ける本』(2010)の方がよっぽどよい。

●日銀

いつもの「手段と目標の独立性」の話。

国際金融のトリレンマ

いつもの話。説明が中途半端。『日本の大問題が〜』の説明の方がよい。繰り返し出てくるのはたぶん本書が書下ろしじゃないからだろう。

●マンデル=フレミング・モデル

いつもの話。『これからの〜』の説明の方がよい。

ハイパワードマネー/マネタリーベース

ハイパワードマネーとマネタリーベースは同じもので「世の中に出回っている現金と民間金融機関が日銀に持っている当座預金残高の合計」(p.46)。
よく出てくるがなかなか覚えにくい用語。マネーサプライという用語もいくつか種類があるし(M1、M2、M3)。マネーサプライ、ハイパワードマネーについては西垣通編『電子貨幣論(1999)での元日銀の岩村氏(早稲田大)の論文が分かりやすく説明していた。いちばんいいのは教科書だろうけど。

プライマリーバランス

現在23兆円の赤字。しかし小泉政権の2003〜2007年の間に22兆円改善している。よって、プライマリーバランスゼロは実現可能な目標。
この話の後に用語解説として「プライマリーバランス」の項が出てくる。順序がおかしいだろう。編集者の問題。

●デフレ

<デフレの原因は人口の減少だ>とする説があるが、実証研究はこの説を誤りであると示している。

●産業政策

産業政策は無駄。成功したこともない。竹内弘高氏などの研究で証明されている。
竹内氏は野中郁次郎氏(一橋大)と『知識創造企業』を書いていた人だ。なお、高橋氏は竹内氏を一橋大教授としているが、今はハーバード大教授。マイケル・ポーターがハーバードに呼んでくれたのかな。

地方分権

三位一体の改革地方交付税・国庫支出金は減らされたが、税源委譲が進まず地方の不満を招いた。
地方分権に反対する人は見かけなくなった。
確かに。その意味で財政学の観点から地方分権に反対する畑農鋭矢=林正義=吉田浩『財政学をつかむ』(2008)の議論はおもしろかった。

【参照文献】

城山三郎『男子の本懐』
藻谷浩介『デフレの正体』 ※デフレの原因を人口減に求める本として紹介。物価(全品目の価格の加重平均)と各品目の価格の区別がついていない。

【関連エントリ】

この経済政策が日本を殺す 日銀と財務省の罠 (扶桑社新書)

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日本の大問題が面白いほど解ける本 シンプル・ロジカルに考える (光文社新書)

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電子貨幣論

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知識創造企業

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財政学をつかむ (テキストブックス「つかむ」)

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