高橋洋一、三橋貴明『大震災で日本は金持ちになるか、貧乏になるか』

2011年に出版された本を紹介する37冊目。前回紹介した『官愚の国』に続いて高橋洋一氏。今回は三橋貴明という人と章ごとの分担執筆になっている。三橋氏の本ははじめて読んだが「信用できない」という印象を受けた。高橋氏の方はいつもの重複ぶりで新しい話はほとんどなし。

大震災で日本は金持ちになるか、貧乏になるか

大震災で日本は金持ちになるか、貧乏になるか

高橋洋一三橋貴明『大震災で日本は金持ちになるか、貧乏になるか』(2011)幻冬舎 ★★★

いつもの高橋洋一氏。新刊が出てたので読んだ。本書は三橋貴明氏との分担執筆。三橋氏は首都大経済学部出身の中小企業診断士。どういう人だか分からないが、本書を読む限りちょっとあやしい感じ。この人の本は今後も読まないだろう。

タイトルの問いに対する答えはいつもどおり。すなわち金融緩和→デフレ脱却→景気回復→「金持ちになる」。復興税は不要。増税してしまうと、景気悪化→「貧乏になる」とのこと。

高橋洋一
●復興税か復興債か?

課税平準化の観点から増税ではなく国債で復興財源を確保すべき。財務省増税が目的で、日本は震災により供給不足に陥るという主張を流布している。財務省増税とセットで導入される租税特別措置がやりたい。租税特別措置を与える業界に財務省利権を生むので。
五百旗頭真氏が復興構想会議の冒頭挨拶でいきなり復興税の話をし始めた。既に財務省に取り込まれている。


増税論の根拠を批判している。

  1. 財政赤字への対応のため増税が必要→政府の資産が多い。それを売れ
  2. 社会保障への対応のため増税が必要→社会保障費を上げるのが筋
  3. 諸外国に比べ税率が低いので増税してもよい→ヨーロッパは地方分権。地方政府の基礎的サービスのための財源になっているから日本と比べられない

前にも別の本で同じことを書いていた気がするが、やはり3.は答えになっていないような。それは地方分権の問題だし、日本だって社会保障は形式的には地方財政がほとんどだからだ。逆にいえばこの「日本はまだ税率が低い」という議論が増税論の根拠として強いのではないかと思う。

●その他

スマートグリッドを活用し小規模発電・売電ができるよう発電事業の自由化すべき。東電の発電事業と送電事業の分離。

原子力発電は事故対応や放射性廃棄物の処理のコストを考慮すればコストが高すぎる。

ジョージ・スティグラーの規制の虜理論経産省(保安院)と東電に当てはめている。

国債の日銀引受は毎年行われている。

インフレ目標とか手段の独立・目標の独立とか日銀法改正などお決まりの話。

復興院をつくって「東北でまず地方分権を」という話。復興院のトップに岩手県出身の小沢一郎氏を推しているところがおもしろい。

三橋貴明
財政破綻

国債の買い手は日本人だから暴落しない。
なぜ必ず日本人が買うと無根拠に想定しているのか疑問。結局は国債への信頼の問題だから、日本人も買わなくなれば暴落するだろう。

ノンリコースローン

ノンリコースローンが普及すれば住宅購入ブームが起きる。
これはおかしい。日本でも別にノンリコースローンが禁止されているわけじゃない。なぜ普及しないのかに言及していない時点でダメな議論。橘玲氏によれば、日本人はノンリコースに対する対価(金利の上乗せ)を嫌っているため(『大震災の後で人生について語るということ』(2011))。

●公共事業(道路)はこれ以上必要ないか?

道路不要論に反対している。本書の三橋氏の議論で唯一参考になった
道路不要論の根拠に使われる指標が可住面積あたりの道路距離。これだと日本はずば抜けて高い。なぜなら可住面積が小さいから。国際的に使われる指標は保有自動車1万台当たりの道路距離。この指標では日本はアメリカより低く、イギリス・イタリアと同程度で、ドイツより高い。


公共投資よりも減税すべき」という公共事業批判に対し、「減税しても個人は貯蓄するだけだからダメ」と答えている。
全然理論的じゃないな。