高橋洋一『財務省が隠す650兆円の国民資産』
2011年に出版された本を紹介する39冊目。前回紹介した『統計・確率思考で世の中のカラクリが分かる』に続いて高橋洋一氏。今回は36冊目の『官愚の国』と同様に高橋氏のベースである官僚批判本。2011年の高橋氏の著書ではベストかな。
- 作者: 高橋洋一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/10/14
- メディア: 単行本
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高橋洋一『財務省が隠す650兆円の国民資産』(2011)講談社 ★★★★
『統計・確率思考で世の中のカラクリが分かる』に続いて高橋洋一氏。今回はひさびさのハードカバー。講談社からハードカバーを出すとなぜか中身はいつも財務官僚の話だ。タイトルは「財政破綻といっても国の資産が650兆円もある(負債は1000兆円)」といういつもの話から取ったもの。ただ中身のメインは財政破綻よりも増税反対だ。「増税の前に資産を売れ」という話。資産650兆円のうち500兆円が金融資産。そのうち380兆円が現金・預金・有価証券92兆円・特殊法人等への貸付金155兆円・出資金58兆円・預託金121兆円などだという。高橋氏の主張は「先ずこの500兆円を売れ」というもの。
本書の大まかな主張は次のもの。
- 現在の日本の政治は財務省に支配されている。鳩山内閣から菅内閣に移った時点で財務省支配が明確になった。なぜ財務省が強くなったか。政権交代により省を守る族議員がいなくなったため。民主党が脱官僚をアピールする目的で財務省と組んで他の省庁を攻撃したため。例えば、国交省、文科省が攻撃対象になった。財務省に遠く離れた2位を維持していた経産省も福島原発の事故で後退するだろう。財務省の独走になった。
- 財務省の目的は何か。自身の権限拡大。そのためにもっとも適した手段が恒久的な消費税増税。所得税増税では景気に影響を受けるため。増税と同時に租税特別措置の軽減税率で特定の業界に利権を与えればそれが権力の源泉になる。
- また税と社会保障の一体改革により、消費税を地方へ移管できなくする(社会保障は国に残るから)。これで地方分権も止まる。財務省にとって財政再建は二の次。
本書の評価だが、ちゃんとまとまってるし、財務省の話が高橋氏の書く内容でもっとも重要と思われるので、いい本なのではないだろうか。挙げられている例も具体的だし。2011年の高橋氏の著書ではベストだろう。過去の本との重複は相変わらずだが。
以下、内容のメモ。
【第1章】
政官財の癒着(特に財務省)について実体験を交えた紹介。
【第4章】
増税より資産を売却するのが先決。国の資産とは何か。要は特殊法人・独法など天下り先の運営のための資金。よって資産売却は特殊法人等を減らすということ。特殊法人・独法は4500もあり、25000人が天下りし、毎年12兆円がつぎこまれている。
【第5章】
デフレ脱却のために「日銀引き受けをやれ」「インフレ目標をやれ」といういつもの話。
【第6章】
資産売却のため廃止にすべき無駄な特殊法人・独法の例を挙げて解説している。
【第7章】
前半は昔からずっとやっている埋蔵金の話。例えば、国債整理基金特別会計、外為資金特別会計、財政融資資金特別会計。後半はその他という感じでJT株売却とか国立大学民営化とか国有地・公務員宿舎売却とかいろいろ。
財政融資特会は財務省が「ない」と言いつつ今まで20兆円も使った。
【終章】
官僚政治を打破する方法として政治任用の拡大を主張している。常識的だ。
【その他】
●なぜ財務省は有能な古川元久氏ではなく無能な安住淳氏を財務大臣にしたのか?
民主党内のガス抜きをさせるため。民主党内の増税反対派に安住氏を攻撃させ、法案を修正して国会にかけ、増税賛成の自民党と協議し国会で再び増税色を強めるように修正して可決させるため。
うーん、頭いいなぁ!ホントなのか知らないけど。
●産業政策
通産省が進行しようとしたのは原子力・石油、航空、宇宙。どれも失敗した。逆に自動車は通産省が各自動車メーカーを普通車、スポーツカー、小型車にグループ化しようとしたのに対し、本田宗一郎が猛反発し、なんとか潰したお陰で発展した。
国民車構想といわれるやつか。
●ビジョン行政
ビジョン行政とは・・・海外の事例と情報を民間に伝え、方向性を示す政策だ。(p.53)
はじめて知った単語。
【参照文献】
古賀茂明『日本中枢の崩壊』
中川秀直『官僚国家の崩壊』