税調復活:政府・与党二元体制とは何か?

読売新聞より。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110903-OYT1T00087.htm

民主党法案事前審査制を導入へ
民主党は2日、政府提出法案の閣議決定前に党側が了承を与える事実上の「事前審査制」導入を柱とした、政策決定システム見直しの原案をまとめた。
 「政策にかかわる党議決定の審議に際して、部門会議などに付託する」と明記。政府提出法案を政策調査会の下部組織である「部門会議」が審査し、了承しなければ閣議決定ができないとした。
[…]
 自民党政権では「政務調査会部会―政調審議会―総務会」で法案の事前審査が行われたが、各省庁が党の実力者に根回ししたり、業界団体が族議員に働きかけたりする中で「政官業の癒着構造」を生んだと批判された。前原氏は2日、「特定の団体の言いなりになる『族議員』をしないようにチェックする」と記者団に述べ、選挙の票や献金が見返りの利益誘導がないよう監視する考えを示した。
(2011年9月3日03時06分 読売新聞)

読売新聞より。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20100806-849918/news/20110904-OYT1T00175.htm

野田政権で、政府・民主党の政策決定システムが大きく変わりそうだ。
 自民党政権で行われた与党の「事前審査制」の導入、自民、公明両党との政策協議の場の創設と、二本立ての体制を築きたい考えだ。2009年衆院選政権公約マニフェスト)で掲げた「内閣の下の政策決定への一元化」は事実上、撤回される。
 「すべての政策が原則、政調会長の事前承認になるので、しっかり党内の議論をしていきたい」
 民主党の前原政調会長は2日、記者団にこう語り、事前審査制による政策論議の活性化に意欲を示した。
 前原氏がまとめた政策決定システム見直しの原案は、政調会長や、政策調査会の下部組織の「部門会議」などの了承を得なければ、政府提出法案などが閣議決定できない仕組みにされている。菅、鳩山両政権では、内閣に政策決定権を集約し、政務三役に入っていない議員から「政策決定に関与できない」と強い不満が出ていたが、党側にも決定権を与えることで不満は解消に向かうとの期待が出ている。

時事通信より。http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011090500542

税調会長に藤井元財務相=民主役員人事が決定
 民主党は5日、政策調査会税制調査会を新設し、会長に藤井裕久財務相が就任したと発表した。藤井氏は同日付で政調会長代行に就いた仙谷由人官房長官とともに、政府・与党が6月に策定した社会保障と税の一体改革案の取りまとめを主導。2010年代半ばまでの消費税率10%への段階的引き上げに向け、党内の意見集約に当たる。
[…]
(2011/09/05-23:22)

せっかく調査会を廃止したのに復活させたという記事。しかも「増税内閣」と呼ばれる内閣で税調というのは露骨。読売新聞の方は政調会廃止の理由にも触れており良い記事。

自民党政権の時代は政府・与党二元体制。ここで与党は自民党政調会をさす。自民党時代は内閣提出法案であっても政調会が事前審査を行っていた。これにより閣法に党の政策選好を反映させていた。また、政調会の部会は実質的に与党議員と官僚の勉強会であり、両者の癒着が進み、族議員が生まれた。族議員・官僚は立法による利益誘導をコントロールしていた。

議院内閣制の原則どおりならば、プリンシパル・エージェント(本人・代理人)の関係は国民→議会→内閣(首相)→官僚のみ(政府一元性)。しかし、政調会の事前審査により、国民→議会→与党→官僚というもう一つのルートができてしまった(政府・与党二元制)。
一方、大統領制であれば、プリンシパル・エージェントの関係は国民→大統領国民→議会という2つのルートが当初から予定されている。そして大統領と議会が抑制・均衡の関係に立つのが権力分立である。
しかし、議院内閣制の原則は権力融合であり、本人としての国民の意思が代理人である議会・内閣・官僚によって実現されることを予定している。政府・与党二元体制は、この原則に反するものとして従来から批判があった。
そこで、民主党政権交代(鳩山内閣)時に政策決定の政府一元化を決定した。しかし、今回、自民党時代に戻したというのが本記事。復活させた理由は記事中にあるように<政務三役に入れない議員の不満>だろう。しかしそれは結局、利権がないという不満ではないのか。調査会復活でまた利権に群がる議員が出てくるのだろうか。

以前のエントリで日本の政治過程の問題は官僚内閣制だと書いたが、法案の事前審査制は族議員・政官業の癒着を生み、官僚内閣制につながるものであり問題だ。

政治学におけるプリンシパル・エージェントモデルについては例えば、建林昌彦・曽我謙吾・待鳥聡史『比較政治制度論』に解説がある。

日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書)

日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書)

比較政治制度論 (有斐閣アルマ)

比較政治制度論 (有斐閣アルマ)