TPP著作物再販制度問題:アメリカ、公取委、新聞社らの立場

「TPPが著作物再販価格維持制度(独禁法23条4項)の廃止につながりそうだ」という話題がある(例えばこれ)。再販制度は新聞社らのレントシーキングの結果(利権)であり、彼らのダブルスタンダードっぷりが現れているので廃止にすべきだ。しかし本当に廃止になるのか。今回は再販制度に対するアメリカ、公取委、新聞社らの立場について。

1.アメリカは著作物再販制度の廃止を求めているか?

答えは「Yes」だろう。自民党時代の『年次改革要望書』の後継と言われる『日米経済調和対話』(2011)にもちゃんと書いてある。

競争政策
執行の有効性:調停手続きの導入、過度な独占禁止法独禁法)適用除外の廃止、[…]独禁法に関する裁判官向け教育プログラムの構築などを通じ、効果的な独禁法の執行プログラムがもたらす利益を増大させる。
http://japan2.usembassy.gov/j/p/tpj-20110304-70.html (駐日アメリカ大使館)

独禁法の適用除外」といっても著作物再販制度だけではない。他にも特許権等の行使(21条)、一定の組合の行為(22条)、指定商品(23条1項)がある。しかし、問題になるのは著作物再販制度だけだと考えられる。
なぜなら、まず指定商品は既に廃止され一つもなくなっている。次に特許権等の行使が独禁法違反にならないのはある意味で当然である。国家が独占を認める権利を付与しているので。ただし、正当な権利行使という条件が付く。最後に組合はかなり限定されているため、大きな問題とならないと思われる。適用除外になる組合は22条1〜4号の要件をすべて満たしていなければならないのだ。
以上からアメリカが廃止を要求しているのは著作物再販制度だと思われる。同時に日本の廃止派がアメリカに要求してもらっているという側面もあるかもしれない(ポリシーロンダリング)。

2.公取委は著作物再販制度の廃止を求めているか?

やはり「Yes」だ。再販制度は再販価格維持という本来独禁法違反行為を適法にする制度であり、現状は消費者の利益を害するものになっているため。

問11著作物再販制度とは何ですか?

答11 一般的に,販売店は自分で仕入れた商品をいくらで販売しようが自由です。メーカーが販売店に対して,メーカーが定める小売価格から値引きすることを禁止すると,販売店の事業活動を不当に拘束するものとして独占禁止法違反となります(「不公正な取引方法」のうちの「再販売価格維持行為」。)。
 しかしながら,一部の著作物(書籍,雑誌,新聞,音楽用CD等)については,著作物の発行者が販売店に対して値引き販売することを禁止し,これに従わない販売店に不利益を及ぼしても独占禁止法違反にならないことが同法第23条に定められており,これがいわゆる著作物再販制度と呼ばれるものです
[…]
 このような制度であるため,再販制度の利用に当っては,以下のようないろいろな方法があり得るのです。いずれにせよ,公正取引委員会は,著作物再販制度の硬直的な運用は消費者利益に反するものと考えています
http://www.jftc.go.jp/dk/tokusyusitei/qa.html#Q11 (公取委)

公取委はかなり以前から著作物再販制度を問題視し、廃止しようとしてきた。その歴史を公取委年次報告から調べてみた。


結論としては、公取委は平成5年頃から著作権再販制度を特に問題視し始め、新聞社らとの戦いが始まる。公取委は平成10年頃に「廃止すべき」と明言して廃止しようとしたが、新聞社らの抵抗に負け廃止できず、平成13年以降は現在まで「廃止すべきだが反対が強くまだその時期でない」という立場になっていることが分かった。

年度 コメント 年次報告の内容
平成元年 公取委は著作物だけを取り出して問題視していない。従来は著作物以外に酒・カメラ・ワイシャツなども再販制度の対象だったようだ。平成元年には対象は医薬品・化粧品・著作物にまで減っている。 再販売価格維持契約(以下「再販契約」という。)とは,商品の供給者が,その商品の取引先である事業者に対して転売する価格を指示し,これを遵守させる行為(以下「再販行為」という。)を内容とする契約である。再販行為は,不公正な取引方法(再販売価格の拘束,一般指定第12項)に該当し,原則として,独占禁止法第19条の違反に問われるものであるが,同法第24条の2の規定により,おとり廉売の防止等の観点から,当委員会が指定する特定の商品及び著作発行物を対象とするものが例外的に同法の適用除外とされている。当委員会は,同法第24条の2の規定に基づき,昭和28年から昭和34年の間に化粧品,染毛料,歯磨,家庭用石けん・合成洗剤雑酒,キャラメル,医薬品,カメラ,既製エリ付きワイシャツの計9商品を指定したが,昭和41年以降徐々にその削減を図り,現在の指定商品は,医薬品(26品目)及び小売価格が1,030円以下の化粧品(24品目)に限られているhttp://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h01/02120000.html
平成 2年 同上。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h02/02120000.html
平成 3年 化粧品・医薬品の一部が対象から除外された。 これらの条件に該当する化粧品12品目及び養毛料のうちリンス並びに一般用医薬品12品目の指定を取り消すこととした(第1表参照)。http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h03/02120000.html
平成 4年 年報が見当たらない(リンク先が空白ページ)。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h04/02120000.html
平成 5年 著作物だけを取り出して検討していると明言。 当委員会は,平成4年4月15日,独占禁止法第24条の2第4項の規定に基づき再販適用除外が認められている著作物(書籍,雑誌,新聞 レコード盤,音楽用テープ及び音楽用CD)の取扱いを明確化するためには,法的安定性の観点から立法措置によって対応することが妥当であるとの見解を公表した。これに基づき,当委員会は,再販適用除外が認められている著作物の範囲について幅広い角度から総合的に検討しており,その一環として,書籍,雑誌及び新聞の流通実態等の調査を実施している。http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h05/02130000.html
平成 6年 検討の期限(平成10年3月末)を切る。 当委員会は,[…]著作物の再販制度について,関係業界だけでなく消費者団体等,国民各層から広く意見を求め,本問題について論議を深めていくこととしている。当委員会としては,その上で,再販適用除外が認められている著作物について,規制緩和推進計画(平成7年3月31日閣議決定)及び緊急円高・経済対策(平成7年4月14日経済対策閣僚会議決定)に基づき,平成10年3月末までにその範囲の限定・明確化を図ることとしている。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h06/02130000.html
平成 7年 年報が見当たらない(リンク先が空白ページ)。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h07/02130000.html
平成 8年 小委員会が中間報告をした。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h08/02130000.html
平成 9年 化粧品・医薬品が対象から除外され著作物だけになった。 化粧品14品目,一般用医薬品14品目の指定を平成9年4月1日から取り消した。これにより,昭和28年以降行われてきた再販指定商品の指定はすべて取り消された。http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h09/02120000.html
平成10年 「著作物再販制度も廃止すべき」と明言。これが期限を切って検討した結論ということだろう。 自身の「著作物再販制度の取扱いについて」(平成10年3月31日)を引用。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h10/02110000.html
平成11年 特に言及なし(?)。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h11/11kakuron00002-10.html
平成12年 「改正すべきだがまだ時期ではない」 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h12/12kakuron00002-11.html
平成13年 「改正すべきだがまだ時期ではない」 「著作物再販制度の取扱いについて」(平成13年3月23日) を引用。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h13/13kakuron00002-5-1_2_3_4.html#0204
平成14年 同上 「著作物再販制度の取扱いについて」(平成13年3月23日) を引用。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h14/14kakuron00002-5.html
平成15年 同上 「著作物再販制度の取扱いについて」(平成13年3月23日) を引用。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h15/15kakuron00002-4.html
平成16年 同上 「著作物再販制度の取扱いについて」(平成13年3月23日) を引用。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h16/16kakuron00002-4.html#05
平成17年 同上 「著作物再販制度の取扱いについて」(平成13年3月23日) を引用。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h17/17kakuron00002-4.html#05
平成18年 同上 「著作物再販制度の取扱いについて」(平成13年3月23日) を引用。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h18/18kakuron1_p154-178_no5.html
平成19年 同上 「著作物再販制度の取扱いについて」(平成13年3月23日) を引用。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h19/19kakuron00004.html#04
平成20年 同上 「著作物再販制度の取扱いについて」(平成13年3月23日) を引用。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h20/div02/div_02_05.html#index02
平成21年 同上 「著作物再販制度の取扱いについて」(平成13年3月23日) を引用。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h21/div02/div_02_05.html#index02
平成22年 同上 「著作物再販制度の取扱いについて」(平成13年3月23日) を引用。 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h22/index.html


ということで「著作物再販制度の取扱いについて」(平成13年3月23日)が現在の公取委の立場だ。引用しておく。

「著作物再販制度の取扱いについて」(平成13年3月23日)
公正取引委員会は,著作物の再販適用除外制度(以下「著作物再販制度」という。)について,規制緩和の推進に関する累次の閣議決定に基づき,独占禁止法適用除外制度の見直しの一環として検討を行ってきた。その中で,平成 10 年 3 月に,競争政策の観点からは廃止の方向で検討されるべきものであるが,本来的な対応とはいえないものの文化の振興・普及と関係する面もあるとの指摘があることから,著作物再販制度を廃止した場合の影響も含め引き続き検討し,一定期間経過後に制度自体の存廃について結論を得る旨の見解を公表した。
これに基づき,著作物再販制度を廃止した場合の影響等について関係業界と対話を行うとともに,国民各層から意見を求めるなどして検討を進めてきたところ,このたび,次のとおり結論を得るに至った。
1 著作物再販制度は,独占禁止法上原則禁止されている再販売価格維持行為に対する適用除外制度であり,独占禁止法の運用を含む競争政策を所管する公正取引委員会としは,規制改革を推進し,公正かつ自由な競争を促進することが求められている今日,競争政策の観点からは同制度を廃止し,著作物の流通において競争が促進されるべきであると考える。
しかしながら,国民各層から寄せられた意見をみると,著作物再販制度を廃止すべきとする意見がある反面,同制度が廃止されると,書籍・雑誌及び音楽用CD等の発行企画の多様性が失われ,また,新聞の戸別配達制度が衰退し,国民の知る権利を阻害する可能性があるなど,文化・公共面での影響が生じるおそれがあるとし,同制度の廃止に反対する意見も多く,なお同制度の廃止について国民的合意が形成されるに至っていない状況にある。
したがって,現段階において独占禁止法の改正に向けた措置を講じて著作物再販制度を廃止することは行わず,当面同制度を存置することが相当であると考える。
http://www.jbpa.or.jp/nenshi/pdf/0108.pdf


また公取委の現在の立場は「著作物再販制度の取扱いについて」(平成10年3月31日)を踏襲したものである。こちらも引用しておく。

公正取引委員会は,この提言や行政改革委員会最終意見(平成9年 12 月)を踏まえ,また,関係者からの意見聴取等を行い検討してきたが,このたび,著作物再販制度について,以下のように取り扱うこととする旨の結論を得た。
公正取引委員会は,独占禁止法第 24 条の2第4項に規定する著作物については,現在まで,書籍・雑誌,新聞及びレコード盤・音楽用テープ・音楽用CDをその対象品目として取り扱ってきているところである。
著作物再販制度については,研究会の提言にあるとおり,競争政策の観点からは,廃止の方向で検討されるべきものであるが,本来的な対応とはいえないものの文化の振興・普及と関係する面もあるとの指摘もあり,これを廃止した場合の影響について配慮と検討を行う必要があると考えられる。したがって,この点も含め著作物再販制度について引き続き検討を行うこととし,一定期間経過後に制度自体の存廃についての結論を得るのが適当であると考えられる。
公正取引委員会は,上記結論を得るまでの間において,著作物再販制度の対象品目を上記6品目に限定して解釈・運用していくこととする。
http://www.jbpa.or.jp/nenshi/pdf/0106.pdf 

この「6品目に限定して解釈・運用」する結果が電子書籍は著作物再販制度の対象ではないという公取委の解釈だろう。

Q14
 電子書籍は,著作物再販適用除外制度の対象となりますか。

A.
  著作物再販適用除外制度は,昭和28年の独占禁止法改正により導入された制度ですが,制度導入当時の書籍,雑誌,新聞及びレコード盤の定価販売の慣行を追認する趣旨で導入されたものです。そして,その後,音楽用テープ及び音楽用CDについては,レコード盤とその機能・効用が同一であることからレコード盤に準ずるものとして取り扱い,これら6品目に限定して著作物再販適用除外制度の対象とすることとしているところです。
 また,著作物再販適用除外制度は,独占禁止法の規定上,「物」を対象としています。一方,ネットワークを通じて配信される電子書籍は,「物」ではなく,情報として流通します。
 したがって,電子書籍は,著作物再販適用除外制度の対象とはなりません
http://www.jftc.go.jp/dk/qa/index.html#Q14

この電子書籍再販制度の対象外ということが、今話題となっているamazonと日本の出版社のKindleに関する交渉に影響していると思われる。

3.新聞社らは著作物再販制度の廃止を求めているか?

当然「No」である。上記2.のように歴史を振り返ってみると公取委が廃止を明言したが抵抗にあい廃止できなかった平成9〜10年が転換点のようだ。その後、公取委は廃止を断念し平成13年以降は「廃止すべきだが反対が強くまだその時期でない」という立場になり現在に到る。
平成10年頃の廃止派(公取委+委員会・研究会)と存置派(新聞社ら)との戦いは行政改革委員会のメンバーであった経済学者、三輪芳朗氏(東京大)のサイトに詳しい。
http://www.miwa.e.u-tokyo.ac.jp/NEW95Z15.htm (東京大)

当然だが三輪氏の立場は廃止派である。

独占禁止法で例外的に認められている「再販」は、消費者にとっては全く不要なものである。著作物も例外ではない。なお、「文化」は再販で守らなければならないものか

以下が当時の経緯。

行政改革委員会規制緩和小委員会の活動に関する連日の報道合戦は、1995年12月8日(金)の朝刊各紙が小委員会が7日に規制緩和の最終報告を決めたと報じてとりあえず終息した。4月に発足した小委員会の活動が、とりわけ9月以降、異例と思えるほど広範な関心を集めたのは、[…]小委員会が論点の一つに「著作物の再販売価格維持維持制度の見直し」をとりあげ、これに反発した新聞社が、業界団体である新聞協会を中心にして鉄の団結を誇示しながら、かつてないほど大々的なキャンペーンを自らの紙面を使って展開すると同時に、とりわけ政治の介入を強く求める働きかけを各党、各政治家に行い、その一部を連日報じたことによる。

 連日の報道のとりあえずの終着点である8日の紙面の見出しが「新聞書籍『再販』結論先送り」であり、一面中央に次のような新聞協会会長の談話が報じられれば、一大キャンペーンと政治的圧力に屈した小委員会がこの論点の検討の先送りを余儀なくされた、さらに、一旦このような決定をしたからには、当分、この論点を正面から取り上げることはできないだろう、との理解あるいは予想を多くの人々が抱くのが自然だろう。現行制度を維持すべきだと考える向きは「やれやれホッとした」と思い、当然廃止すべきだと考える向き、さらに、結論はともかく、少なくとも検討の爼上に乗せてオープンに議論すべきだと考える向きは、「残念なことだ」、さらに「ケシカラン」と考えただろう。

そして新聞協会会長のコメント。

小池唯夫日本新聞協会会長談話(12月7日:『日本経済新聞』12月8日)
 規制緩和小委員会の著作物再販に関する報告書は、独禁法上、通常の商品にあっては原則禁止の再販について、新聞を含む著作物の場合は、このような観点から是非を論じるのは適当ではないとの立場から、慎重な姿勢を示したものである。しかし著作物の持つ高度の文化性、公共性に関する認識を欠き、世論調査や国民各層の著作物再販を支持する声を顧慮せず、今後とも存続させるという結論に至らず、問題を先送りしたことは極めて遺憾である。しかも、審議過程で同小委員会の原案ではわれわれや文化庁等の意見を否認し、『原則廃止の方向で見直す』と明記しようとしたことなど、極めて良識を欠く動きがあったことを考えれば、今後の委員会の動きを一層警戒せねばならない。新聞協会は『著作物再販を見直そうとする公取委当局の流れは変わっていない』という厳しい認識の上に立って、引き続き組織を挙げて、著作物再販の重要性についてさらに広く読者、国民の理解を得ていくとともに、国民の知る権利にこたえ、報道評論の充実と正常販売の徹底、安定した流通システムの確保に努めていく決意である。

三輪氏の新聞協会の主張に対するコメント。

新聞協会からは、3月3日の午前中に代表を招いて意見を伺った。その際の率直な印象は、「公共性」とか「文化」という言葉を振りかざすだけで十分だとお考えのようだというものであった。

三輪氏だけでなく友人の財政学者のコメントも痛烈。

(1)新聞業界の廃止反対運動はまことに激しく、執拗であり、非課税措置廃止決定後の経過措置をほぼ15年間にわたって存続させたなりふりかまわぬ仕事ぶりは見事としかいいようがない。
(2)政府提案の提出・実現のプロセスに対する新聞協会の意向に沿った政治家の圧力が目立った
(3)自らの業界の既得権益に関わることは一切報道しないという差別的取扱いに呆れた。他の業界の非課税措置廃止反対運動や政治的発言力が弱いグループに対するわずかな優遇措置にはめくじらを立て、面白おかしく報道するくせに、自らの執拗な運動については一切報道しないのは、国民の知る権利を踏みにじっているとしかいいようがない。
(4)新聞を含めた関係業界の、自分達の業界は別だという特権意識の強烈さに驚いた。知る権利を踏みにじり、文化の低俗化に大いに貢献したマスコミに、わずかな良心でも残っていれば、「公共性」の錦の御旗のもとに享受しているさまざまな不当な優遇措置を即座に返上すべきだ。

他の業界については「面白おかしく報道するくせに、自らの執拗な運動については一切報道しない」というのはまさにダブルスタンダード。「知る権利」など<権利>は普遍性をもつが<特権>は普遍性をもたない(「新聞業界だけ特別だ」)。<特権>は法学の用語で、政治学では<利権>といい、経済学では<レント>というと考えればいいだろう。

4.新聞特殊指定

なお、新聞については再販制度と関連して新聞特殊指定(新聞の値引き販売を独禁法違反とする公取委の告示)の存廃という問題がある。再販制度とともに廃止すべきだろう。

新聞業における特定の不公正な取引方法
1 日刊新聞(以下「新聞」という。)の発行を業とする者(以下「発行業者」という。)が、直接であると間接であるとを問わず、地域又は相手方により、異なる定価を付し、又は定価を割り引いて新聞を販売すること。ただし、学校教育教材用であること、大量一括購読者向けであることその他正当かつ合理的な理由をもってするこれらの行為については、この限りでない。
2 新聞を戸別配達の方法により販売することを業とする者(以下「販売業者」という。)が、直接であると間接であるとを問わず、地域又は相手方により、定価を割り引いて新聞を販売すること。
http://www.jftc.go.jp/dk/tokusyusitei/kokuji-shinbun.html

新聞特殊指定についてはQ&Aが詳しい。下の引用は「廃止すべき」と明言している箇所。公取委自身の管轄する規制なのに廃止できないというのはスゴイ。

問7今まで新聞特殊指定を維持していたことに問題があったということですか?

答7 公正取引委員会としては,問6で述べたように,現在の新聞特殊指定には問題があると考えています。行政機関が自ら行っている規制に問題があると気が付いた場合には,それを改めることをためらうべきではないと考えます。「特殊指定」は,公正取引委員会が個別業種の事情にかんがみ,一般指定では不十分であると認める場合に行う特別な規制であり,今日,これをそのまま維持する理由は見当たらないと考えています。
http://www.jftc.go.jp/dk/tokusyusitei/qa.html#Q6

【参照文献】

独禁法の一般的な歴史については、公取委に出向していた経験のある郷原信郎氏(弁護士)が一般向けに書いた独占禁止法の日本的構造』(2004)が参考になる。

独占禁止法の日本的構造―制裁・措置の座標軸的分析

独占禁止法の日本的構造―制裁・措置の座標軸的分析